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【読書感想文】驚きの連続!雨穴「変な絵」

変な家」が話題となった雨穴さん。「変な家」を読んだ時、挟んであった広告で知ったこの「変な絵」。

とても気になった。建築よりも絵画の方により興味のあるチョコナッツ。これは、絶対読むべきだ。

ということで、早速購入。

変な絵 単行本(ソフトカバー)→https://amzn.to/3xD6vCO

まだ文庫化していなかった。

表紙を見れば分かる通り、絵は何枚か登場する。だから、私はいくつかの物語が収められた短編集なのかと思っていた。

概要(さわり)

まず、プロローグ的な感じで、子供が描いた絵が出てくる。表紙の一番下の絵だ。これを描いた子が、どういう子なのかを知り、ギョッとする。なるほど、そういう風に絵を読み解くのか……と感心させられる。

そして、第一章が始まる。主人公は大学生の佐々木。彼はオカルトサークルに所属している。そのサークルの後輩栗原から、あるブログを紹介される。怖いから読んでみてくださいと。

そのブログとは、結婚したばかりの男性が書いた日記だった。そのうち妻の妊娠が解かり、日々の暮らしがつづられていた。妻は元イラストレーターで、絵が上手だった。ブログに妻の描いた絵の写真が何枚か載っていた。

そして、子供が生まれるのだが、妻が亡くなってしまった。ブログは終わるが、どうも妙で……。佐々木は絵の謎を解こうとする。栗原が絵の謎が解けたと言うので、サークル室で謎解き。絵の謎は解けたのだが、佐々木がどこまで行っても栗原に再会できなかった、という風に第一章が終わる。なんだか、妙な終わり方だった。

第二章は保育園児とママの双方の話が交互に書かれていた。そして、だんだんと分かってくる。ああ、そういう事だったのか!と。

で、これ以上はネタバレになるのでここまで。

校正ミス

1つだけ、言葉が間違えている箇所があった。非常に気になる。物書きの端くれからすると、書き出し語尾ちぐはぐになってしまう事はよくある事で、見直しをしないとしょっちゅうそのようなミスは起こるものだ。しかし、出版された本は、本人のみならず校正する人がいて、ちゃんと直してくれるはずなのだ。いただけない。

どういう箇所かと言うと、

~は知った。~だという事に。

となっている箇所だ。これは、

~は知った。~だという事

にするか、

~は気づいた。~だという事に。

にしないとおかしい。おそらく、どちらかを直したのに、もう片方を直さなかったのだと思われる。ああ、気になる。言葉をこれで覚えてしまう人がいたら困るではないか。

全体的な感想

それにしても、雨穴先生は天才か。天才だろう。よくもまあ、こんなに読者を驚かす事が出来るものだ。雨穴先生は自らをホラーな作風を得意とするウェブライターだと言っているようだが(ユーチューバーでもある)、なるほどちょっと怖い。ぞっとする。

私は、何となくホラーと言うと幽霊を連想してしまうのだが、「13日の金曜日」のような、相手は結局人間だが、襲われる恐怖を描いた作品もホラーと言うから、確かにこの「変な絵」もホラーだろう。いや、襲われる恐怖だとは言っていないが、色々とぞっとしたりヒヤヒヤしたりするから。

ちょっと怖いのだが、たくさん驚きがある。正解が書かれる前に分かってしまう事もある。その時、分かった!と思った時にこそ、ぞーっとする。暑い時には最適な本だな。

ただ……もしかすると私の読み取りミスなのか?一番最後まで行っても、やっぱり物足りなさというか、腑に落ちない部分があった。何か、気づいていない重大な事があるのではないか。読んだ人、語り合おうではないか。

さて、この先はネタバレがあるので、これから読む人はストップだ。今すぐこのページをブックマークし、上のリンクをクリックして「変な絵」を買うべし(笑)そして、読んだ後にこの先へ進むべし。

本当のあらすじ(ここよりネタバレあり)

驚きを感じて欲しいから、まだ読んでいない人はこの先は読まないように。

でも、読むつもりのない人や、読まないけれど内容を知りたい人もいるかもしれない。読んだ後、よく分からなかったからここへ来た人もいるかも。というわけで、需要がありそうなので詳しい感想を書こうと思う。

最初のプロローグのような部分には、ある少女が描いた絵を、心理学者が読み解く場面が描かれている。

玄関のない家、枝の尖った木、木の中にいる鳥。実はこの絵を描いたのは、母親を殺害した11歳の少女だった。心理学者は、この少女には自分より弱い物を守ってあげたいという庇護欲、母性愛があり、更生の可能性が十分にあると判断したそうだ。

そして第一章が始まる。佐々木と栗原が読んだブログを書いたのは七篠レンという男性。妻のユキは出産間近になって取り乱して泣いた。その後、絵を描くと落ち着くと言って何枚かの絵を描いた。未来予想図だと言って、赤ちゃんの絵や女性の絵、老婆の絵、男性の絵、幼児の絵を。ユキのお腹の子は逆子だった。しかし、充分に準備すれば安全に出産できると言われて安心したとレンは書いていた。

ところが、ユキは出産時に亡くなってしまった。亡くなった後、しばらくブログは更新されず、3年後に最後の記事が書いてあった。そこには、あなたの罪、などという言葉が並ぶ。

佐々木たちは絵の謎を解いた。イラストレーターだったユキは、絵に数字を描いておき、その数字を軸にして重ね、背景を切り取ると一枚の絵になるように描いていた。三枚の絵を重ねると、老婆が女性のお腹から赤ん坊を引っ張り出している絵になった。

第三章は、園児である優太とママの話だった。パパは3年前に亡くなり、今優太は6歳。優太は以前、パパに言われた事が思い出せそうで思い出せずにいた。保育園でママの絵を描いた優太だが、マンションと自分とママを描いた絵の一部を、なぜか灰色に塗りつぶしていた。それは、マンションの自分たちの部屋の辺りだった。先生が心配して、ママにその絵を見せた。

ママは、最近つけられていると感じていた。灰色のコートの男につけられている。ママの名は直美。そんな折に、優太が一人で出かけてしまった。保育園にも行っておらず、直美は必死に優太を探した。警察には事情があって行かれない。そして、やっと優太を見つけた。それは、優太の本当の母親の墓がある墓地だった。

その母親は、ユキ(由紀)だった。そう、あのブログの。

優太は父親の言葉を思い出したのだ。なぜかと言うと、保育園で自分の名前の漢字を習ったからだ。優太の苗字は今野と言う。

ちょっと待ったー!保育園で「今まではひらがなで名前を書いていたけれど、小学校に上がったら漢字で書かなければならないから」と先生が言って、園児たちに漢字を教えていたのだが、おかしいぞ。小学校に上がった時にはひらがなで名前が書ければよいはず。小学校に上がる前にはひらがなさえ、書けなくても問題ないはずだ。だが、漢字を習ったという事が物語に大きく関係しているから、こうするしかなかったのだろう。

話を元に戻す。漢字を習ったことで、お墓に書いてあった記号が「今野」だった事が分かった優太。そして、同時に父親の話を思い出したのだ。本当のママはここにいると。優太にとって、お母さんは墓石だった。保育園でお母さんの絵を描きましょうと言われた時、前日にママに叱られた事もあって、ついお墓を描こうとしてしまったのだ。だが、すぐにイケない事だと思い、黒いクレヨンで書いたものを、白いクレヨンで消そうとした。それで、灰色で塗りつぶしたようになっていたのだ。その上からマンションの絵を描いたというわけだ。絵を後から塗りつぶしたのか、先に塗ってあったのかは、見てすぐわかると思うけどなぁ。

それで、ママこと直美の事を、保育園の担任ではない先生が、優太君のおばあちゃん、と言った事で、こっちもギョッとするのだった。

第四章は、美術教師の話。家族や生徒思いの三浦義春は、一人で登山をした際に惨殺された。三浦がどんな人物だったかを回りに聞き込みすると、独りよがりで嫌われ者だったと分かる。三浦は殺害された時、レシートの裏に絵を描いていた。殺害された場所から見た風景だった。なぜそんな絵を最後に描いたのか、それが謎だった。

容疑者は三名いたが、犯人は捕まらずに何年も経ってしまった。ところが、新聞社に就職した三浦の元教え子が独自に取材をしようと試みる。

容疑者は三浦の妻、美大時代の友人、豊川、顧問をしていた美術部の部長、亀戸。新聞社の岩田は、先輩の熊井から資料を見せてもらい、母校を尋ねる。そこで、亀戸と会い、お互いが三浦を慕っていた事を確認した。岩田は三浦の命日に慰霊登山をしようと亀戸を誘ったが、断られ、一人で登山をする事になった。

岩田が、三浦が亡くなった日にとった行動をなぞって登山をしていくと、テントで寝ている時に異変を感じる。なんと、三浦の妻がいたのだ。寝袋の上から縛られ、石で足を殴られ、目を殴られる。岩田はその時、ようやく三浦が残した絵の謎を解いた。そして、自分も同じように後ろ手で、三浦が描いたのと同じ絵を描いた。

豊川は自殺した。表向きは、三浦と岩田を殺した事を苦にして自殺した事になった。

最終章は、プロローグに出てきた少女の絵だ。その少女が主人公となる。その少女は直美だった。そう、三浦の妻は直美だ。

三浦が何故絵を描いたのか。三浦が描いたのは、夜には見る事の出来ない風景の絵だった。その日に倒された柵も描かれており、警察はその絵が日が暮れる前に描かれたと思ったわけだが、本当は夜中、殺害される最中に描いたものだった。それは、直美が逮捕され、自分が殺されたら息子が独りになってしまうと思い、直美をかばうために描かれたものだと、直美は後になって分かるのだ。

直美は自分の母親を殺した。それは、大切な文鳥を母親が殺そうとしたからだった。

三浦と結婚した直美は、息子の武司を可愛がった。武司は家でじっとしているのが好きなのに、夫は無理に外へ連れ出し、好きでもない肉を食べさせる。更には、10歳を過ぎたら体罰をした方がいいと言って武司を殴った。だから、直美は夫を殺害した。

直美が怯えていた灰色のコートの男は熊井だった。熊井はわざと相手を怖がらせ、自分が刺される事で別件逮捕させようと、家を訪れたのだった。直美はこのままでは孫の優太に危険が及ぶと思い、熊井を刺した。そして、掴まった。

由紀の事は……これだけは、誰かを守る為ではない殺人だった。そう、由紀の旧姓は亀戸だ。美術部部長だった、あの。助産師だった直美は、血圧が高めだった由紀に、なんと塩のカプセルを飲ませ続けたのだ。直美は、母親でいたかった。おばあちゃんではなく。

最後に、熊井が刺されて入院した病室に、何とあの栗原が入院してきた。栗原は、先輩に約束したからあの事件を色々と調べたのだと言う。足を怪我していたのだが、はて、彼はどうして怪我をした?私が呼び飛ばしてしまったのか?そんな事はないと思うのだが。

熊井は、がんが再発しており、捨て身で刺され役を買ったわけだが、栗原との交換条件(ブログの事を教える)で手術をし、優太の世話をする事になった。めでたしめでたし、で終わる?

それから、直美が11歳の時にカウンセリングをした心理学者だが、直美が捕まったことでショックを受ける。あの絵を見て、木の中の鳥を見て、更生可能だと判断したが、それは間違いだったのかと。木の枝が尖っているのは、鳥を守るためだったのではないかと。

直美の息子の武司は、由紀が残した絵の真相に気づき、自殺してしまったのだった。

母性

結局この本は、何枚かの絵の謎を解く事になっていながら、一つの物語だったのだ。本当の主人公は直美だったと言ってもいい。

そして、テーマは「母性」だと思う。直美は、自分の為に殺人を犯した由紀に対しては罪悪感を感じていたが、それ以外の殺人は、いつも誰かを守る為だったので、罪悪感も後悔もなかった。人は何かを守る為だと思うと、残虐な事も平気でしてしまうのだ。それが正義だと思ってしまうのだ。

一つには、戦争に思い至る。自分の国、自分たちの民族を守るためならば、他国を攻撃しても良いと思ってしまう。だが、客観的に見れば残虐な行為なのだ。決してしてはならない事なのだ。

もう一つは、世の母親の事を思う。よくニュースでも、

「子供が小さいので、そういうのは困りますねえ」

などとインタビューに答える女性を見る。子供の為ならば、ハッキリと物申せるというか。

例えば、知的障碍者に対して迷惑だ、などと言うのはいけない事だと皆思う。だが、それが子供を守るためだと思うと罪悪感を感じなくなるのだ。

子供が危害を加えられたら困る

だから、この辺を通らないで欲しいとか。もし自分の為だったら、通るな、あっちへ行ってくれなどとは言えない。そんな事を言ったらこちらが悪者だ。しかし、母親は自分の子供の為ならば言えるのだ。

母性は本能ではないと言う。後から育ったものなのだ。人間は社会で生きているから、子供は守るべきものだと学習しながら育つ。直美の例は極端だが、多かれ少なかれ、自分の為だったら迷惑だと言えないけれど、子供の為だったら堂々と言えるという事は、どの親にも言える事ではないだろうか。

雨穴さん、トリックだけでなく、そういう社会の構造をクローズアップさせてしまうなんて、さすが。やはり天才だ。あ、そうだ。YouTubeも観てみようかな。実はまだ観た事がなかった。

ざっと説明したが、細かいトリックちょっと怖い絵など、読めばもっと面白いので、内容を知ってしまった後でも、良かったらご一読を。

では、また。