「Amazonプライムデーだから、エアロバイク買う」
と、夫が言った。
そういえば、前にもそれを欲しいと言っていた。夫は最近運動の為、休日に自転車に乗っているのだが、週末が雨だったりすると乗れないので、欲しいと。
置く場所なんて、なかった。置くとしたらここしかない、という場所には私の電子ピアノがあった。
まあ、このピアノも実はちょっと壊れている。ペダルを踏んでもいないのに、ボワボワする事があるのだ。
でも、買い替えるほどピアノを弾くわけでもない。
ただし、ピアノが全くない生活は寂しい。子供たちも時々弾いているのだし。
と、堂々巡りだった。
だが、Amazonプライムデーだから、という夫の言葉に、私はピンときた。
電子ピアノもさ、もっとコンパクトで安いものでいいから、プライムデー価格で買えばいいのでは、と。
探した。目を乾燥させながら、あれこれ吟味して、けっこうお安いのを見つけた。そして、購入した。
古いピアノを処分するには
古いピアノは、私が結婚する時に、自分が貯めていたお金で買った。
ピアノは高校生まで習っていたが、その後はあまり弾いていなかった。でも、ピアノが無いのは寂しいと思い、本物のピアノになるべく近いものを買おうと思った。
マンション住まいなので、ヘッドホンをするか音量を小さくして弾けるように、電子ピアノにしようと思った。安く済ませようなどとは思っていなかった。
渋谷のパルコに買いに行き、タッチがピアノに近いと思ったRolandの電子ピアノを買った。
16万円だった。その時パルコでは福引をやっていて、30回くらい弾いて、なんだかビニール製のバッグをもらった気がする。末等もたくさんあると上の賞品に替えてもらえるとかで。
さて、新しいピアノは持ち運びできるような、軽いもの。今あるのは重たい。何度か部屋の模様替えで移動させたが、夫と二人で持ち上げるのも本当に大変だった。そのくらい重たいもの。
粗大ごみかと思っていたら、夫が「売るんだよ」と言った。悪い顔をして。
「壊れてるとか、言っちゃだめだぞ」
とか言って。
まあ、査定額が低くても、最悪無料でも、持って行ってくれたらそれでいい。
早速買取業者を探した。
「電子ピアノ 買取」
で検索すると、たくさんヒットした。すぐにインターネットで申し込めるところで、と思って、ある買取業者に申し込んだ。仮にA社としよう。
すぐに受諾のメールが来て、それから数分ののち、電話が掛かって来た。
「どのようなお品物でしょうか」
「何年くらいお使いですか?」
などと聞かれ、電子ピアノで、24年使っているなどと答えた。すると、
「他に、お品物はございますか?」
と聞かれた。他にはないと答えたら、
「わたくしどもはブランド品を専門としておりまして、電子ピアノだけですとお受けできません」
と言われた。でも、ブランド品はない。そう言ったら、それではまたご縁がございましたら…と言って電話を切られた。あらら、そうだったのか。
っていうかさ、電子ピアノ買取で検索して出てきた業者なのに、そういうのあり?
と思って、もう一度A社のホームページを見たら、やっぱり「楽器」も書いてあって、決してブランド品がないとダメ、などとは書いていなかった。
気を取り直し、他の業者へ査定の申し込みをした。今度はB社としよう。こちらも同じように受諾のメールが来て、数分後に電話が掛かって来た。
こちらは、電子ピアノだけでも査定しに来てくれるという事だった。翌日でもOKだったが、ピアノ回りを片付けないといけないので、二日後の午後に約束をした。
買取業者がやってきた
色々捨てて、ピアノの上は綺麗に。24年も経っているなんて思えないほど綺麗、な気がする。これでお別れかと思うと、ちょっとおセンチになって写真を撮ってみたりする。

B社の人が査定にやってくる日。
電話の時に確認したら、ピアノは査定した日に持って帰ってもらえるものではないと言う。トラックで来るわけではないそうで。でも、エアロバイクが来てしまうので、なるべく早く持って帰ってもらいたいと言ったら、バラして持ち帰れるかもしれないので、担当者と直接交渉してくださいと言われた。
よく「その場で買い取り」「その場で現金でお支払い」などといううたい文句を聞くが、B社はそうではなかったようだ。
いくらで売れるかなーと考える。新しく買ったピアノが1万8千円くらいだったので、2万円で売れたら本望だ。でも、元々16万だったわけだし、交渉次第になったら最初は5万とか言っておくか、などと考えていた。
午後2時~3時のお約束だったが、1時に電話がきて、あと10分くらいで行ってもいいかと聞かれ、いいと答えた。
今日は暑い。だが、風がけっこうあって、うちは風通しが良いので何とか過ごせる。来てもらって暑いのは申し訳ないけれど、ちょっとピアノの状態を見るだけだからいいよな、と思って冷房はかけていなかった。
ピンポンと鳴って、名刺を出してきた担当者。部長だと言う。
ピアノを見て、お子さんのですか?と言う。私のだと言うと、綺麗ですねーと言う。あまり使っていないからと言うと、自分の姉もピアノやっているのだけれど、ボロボロだと言う。
次に蓋を開けた。

「Rolandですね」
と言い、ピアノの裏を見せて欲しいと言った。後から思えば、型番の写真を撮ったようだ。
「状態を見ます」
と言って、電源を入れ、音を鳴らしていった。
「24年経っているのに、全然綺麗ですね。今、電子ピアノ買って来たんですけど、もっと状態悪かったですよ」
と言う。そして、真ん中辺の音を鳴らした時、例のボワボワが現れた。ペダルを踏んでいないのに踏んだみたいに響いている。こっちはヒヤヒヤ。すると、
「やっぱ、Rolandはいい音ですねー」
などと言う。また、高い方の音を鳴らすとボワボワはなくなった。そうか、真ん中辺だけがああなるのか。しかし、あのボワボワを聴いていい音、なんて言うようでは、この人ピアノの事全然分かってないな、と思った。
「では、今から3社に見積もりを取るので、5分くらいお待ちいただけますか」
担当者はそう言った。スマホをしきりに操作している。3社?それは、Rolandとか、島村楽器とか、そういう?それって、私が直接そっちに売る方が良かった感じ?
「待っていただく間に、一応ですけど、これを」
担当者は、私にチラシをくれた。

あー、やっぱり他の物も売れって?
今、買って来た
見積もりが出るのを待つ間、という事で、雑談的に話が始まった。
「風、涼しいですね」
と言うので、私がクーラーが好きじゃなくてと言ったら、
「僕も、クーラー嫌いなんですよ。よく暑いでしょーってかけてくれるんですけど、クーラーかよって思ってるんです」
などと言う。その時は奇遇だな、と思ったが、後から思うとおべっかだったと思う。
担当者はカバンから、パクっと閉まる、指輪などの入れ物を出し、
「今、これ2千円で買って来たんですよ。こういうの、ありません?」
と言った。あるけど、中身が入ってるから、と言った。すると、今度はたくさんのアクセサリーが入ったビニール袋を取り出して見せ、
「さっき買った指輪なんですけど、9万で買いました。これ、6万で買ったと言ってましたけど」
そして、今は娘に譲ろうと思っても、若い人は使わないんですよねーとか、そういう雑談になる。
「何か、使っていないアクセサリーとかありません?」
「鎖のからまったネックレスとか、片方失くしたイヤリングとか」
「止まった腕時計とか」
「使いきらないで残っている香水とか」
「我々は、イミテーションの、おもちゃのアクセサリーこそ、欲しいんですよ」
と、やたらとアクセサリーを出させようとする。私は、たとえあっても「無い」と言う。だって、よく話に聞くではないか。要らないアクセサリーを出させて、一端ありかを知ると、何だかんだと言って結局高額な品を二束三文で強引に持って行ってしまう、という悪徳業者の被害の話を。
一度アクセサリーのある場所を知られたら終わりだ。使わないものは捨てた、あるものは使う、と言ってやり過ごした。怪しんでいるとは悟られないようにしつつ。そのうち、
「お子さんのゲーム機とか、ありませんか?」
とまで言って来た。あるかもしれないが、無いと言う。
ピアノの査定は
多分5分以上経った。見積もりの話が本当なのかさえ、怪しく思える。そして担当者の言った言葉は、
「見積もり、つかなかったです」
つ、つまり、ピアノは買い取ってもらえないと?
ガーン。
やっぱり。やっぱり怪しいと思ってたんだよ。
「うちは無料引き取りはやっていないので」
と言う。
再び、ガーン。タダでもいいから持って行って欲しかったのに、それもダメか。
「もし、有料で引き取ってもらうとしたら、おいくらですか?」
と聞いたら、
「2万とか、そのくらいですね」
と、絶対にやる気ない感じ。まあ、2万なら自治体の粗大ごみの方が安いに決まっているから、もうこれ以上はいい。
では、と言って担当者は帰って行った。チラシは置いて行ってくれたから、ブログに載せてやれと思った。
絶対に詐欺だとは言わないが、かなり怪しい。よほど新品同様のピアノだったら買い取ったのかもしれないが、それよりもアクセサリーが欲しかったのだろう。イミテーションで要らないようなアクセサリーならたくさん持ってるけどさ。片方失くしたどころではなく、福袋に入っていた一度もしていないピアスとか、いっぱいあるけどさ。
っていうか、もっと状態の悪いピアノを今買って来た、と言ったよな?あれは本当なのか?少なくとも「状態が悪い」というのはウソだろ?
自治体では
ピアノ売れなかったー!
と、夫に知らせた。「売れ」と言ったのは夫だが、ささっと調べたらしく、自治体は1500円だから、自治体だな、と言って来た。
つまり粗大ごみだね。
早速パソコンを立ち上げ、粗大ごみの申し込みを始めた。すると、2300円だった。あれ?どういう事?粗大ごみじゃないのか?
自治体は2300円だったけど、粗大ごみじゃないの?と送ったら、ピアノの型番を聞かれた。送ったら、オークションでも見かけないね、と返って来た。Rolandは一流ブランドだけど、24年物は無理だから、廃棄でいいよと。
なんか、かみ合っていない気もするが、粗大ごみの申し込みをした。まあ、2週間くらいは先になってしまうけど。エアロバイクはそれまで箱のまま置いておくのか、それとも…どうするのかな。
しかし、欲をかくとろくな事はない。変に騙されるような事がなくて良かったが、もし、大事なものを二束三文で奪われたりしていたら、却って高い物になっていただろう。大人しく、2300円分のゴミ処理券を買って来よう。
今思えば、最初にきっぱり断ってくれたA社は、むしろ健全だったな……