会場が暗転し、音楽が流れ始める。
―キャー！！
客席が浮足立つ。
―パンパンパン！
ステージ上の花火が弾けた。一層歓声が大きくなる。
―ワー！！！
―キャー！！！
ここはマレーシア最大のコンサート会場である。観客のお目当ては、日本のアイドルグループ “Save The Earth”（セイブ・ジ・アース、略してSTE）。彼らのワールドツアーはここ、マレーシアが最終国となっており、今日はマレーシアでの初日だった。
STEのファンは、”仲間”を意味する”フェロー（Fellow）”と呼ばれている。フェローたちの歓声はしばらく続いたが、STEの姿は一向に現れない。そのうち、異音が響き始める。
―バタバタバタ
最初の曲のイントロが始まり、歌い出すところまで来たのに、声が聴こえない。それよりも、バタバタという音が大きく響き渡る。フェローたちがざわつき始める。
フェロー：「これ何？ヘリの音？」
フェロー：「STEはどうして出て来ないの？」
―ザワザワザワザワ
―ザワザワザワザワ
MC：「えー、本日は、都合により、STEのコンサートは中止とさせていただきます。皆さま、足元にお気を付けの上、ご退場ください。」
アナウンスが流れたが、誰一人として会場を出ようとする者はいない。
フェロー：「えー！！！」
フェロー：「どういうこと？一体何があったの？」
フェローたちの間に、心配、不安が駆け巡る。そして、誰一人動けずにいた。
フェローたちは、しばらくこの会場に居続けたが、この場所にSTEのメンバーが姿を現す事はなかった。
一方、舞台の裏では。
植木：「そろそろ時間だ。」
―キャー！！！
歓声が聞こえて来た。
流星：「よし、行くぞ！」
メンバー：「おう！」
STEのメンバー7人は、廊下を歩いて行き、ステージへと降りる仮設のエレベーターに乗り込んだ。各自ポーズを決める。歓声がだんだん近づいて・・・来るはずだったが、
―バタバタバタバタ
何やら頭上で音がし始めた。そして、ガクンと、立っていられないくらいの衝撃があり、エレベーターが大きく揺れた。
流星：「な、なんだ？」
光輝：「上がってない？下りるんじゃなかったの？」
そして、エレベーターは横へと移動し始めたようだった。
碧央：「なんなんだよ？まさかドッキリ？」
涼：「えっ！そうなのか？あれだけ観客が入ってたのに？。」
篤：「そうだよ。俺、ちゃんと客席見て来たぜ。フェローのみんながちゃんといたよ。」
瑠偉：「じゃあ、一体どうなってるの？俺たちどこへ連れていかれるの？」
光輝：「おーい！誰かいませんかー？」
篤：「俺たちどうなっちゃうのー！？」
7人は大パニック。各々エレベーターの壁を蹴ったり、叩いたり、わめいたり。
大樹：「待て！みんな、落ち着け。とにかく座ろう。あまり騒ぐと酸素が無くなるぞ。」
いつも冷静沈着な大樹が、ふと我に返ってそう言うと、他の6人は動きを止めた。そして、黙して座った。酸素が無くなると言われて、みな顔が引きつっている。
大樹：「まず、様子を見よう。事態が動いてから考える。それでいいな？」
もう一度大輝が言った。みんなは黙って頷いた。
スタッフ：「大変だぁ、なんだ、どうしたんだー！」
パニックなのはSTEメンバーだけではない。いや、むしろもっとパニックになったのが裏方の現場である。まだ楽屋にいた、STEの所属事務所の社長である植木のところへ、現地スタッフのマレーシア人たちが走ってやってきた。
スタッフ：「大変です！エレベーターが！エレベーターが！」
植木：「どうしたんですか？まさか、事故ですか？彼らが怪我でもした？」
植木が問いかけても、スタッフは首を横に振るばかり。植木はマネージャーの内海と共にステージへと走った。
仮設のエレベーターが無くなっていた。ただ、それだけ。
植木：「これは・・・一体どうしたというのだ？」
内海：「このエレベーターを設置した業者に問い合わせよう。」
切羽詰まった調子で内海が言い、電話をかけた。
内海：「・・・ダメだ！つながらなくなっている！」
植木：「何！？どういう事だ？あの子たちは、まさか・・・誘拐されたのか？」
2人は青くなって顔を見合わせた。