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【読書感想文】夏目漱石「草枕」を読んで

あらすじ

主人公は画家である。都会に住んでいる画家がに出る。温泉宿に逗留し、出戻り女の那美と知り合う。

主人公はなかなか絵を描かない。詩ばかり書く。絵を描く為にあちこち散歩などをするが、描きたい事がこれなんだ、あれなんだと言いつつ、結局描かない。

那美には色々驚かされる主人公。那美の絵を描きたいと思うのだが、那美の顔には「憐れ」が足りないと思う。そして、最後にはとうとうその「憐れ」が那美の顔に表れる。

有名な句

出だしが有名だ。

「山路を上りながら、かう考えた。
智に働けば角が立つ。情に棹させば流される。意地を通せば窮屈だ。兎角に人の世は住みにくい。」

昔、ワープロのタイピングソフトで、打つ文章の中にこれがあった。

この出だしからも分かるように、草枕の文章は非常にリズムが良い。流れるような文体だ。

だが、一方ですごく難しい。難解だ。熟語や漢字もめっぽう難しい。けれども、中盤以降は時々会話文が続くところが出てくる。そうなると分かりやすくなる。躍動感が出る。

夏目漱石は、口語体で書き始めた作家として有名だ。だが、この草枕はちょっと文語体に近い所がある。初期に書かれたものだからかと思ったが、草枕よりも前に書かれた「坊っちゃん」は分かりやすい方だと思うのだ。だから、草枕は流れるような美しい文体にしようと思った為に、結果的に難解になってしまったのかなと思う。

森鴎外の「舞姫」は有名だ。あれも美しい文章で知られる。確かに美しい。しかし、文語体なので読みやすくはない。古文よりは読めるが、高校生が苦心して勉強するくらいのレベルだ。この草枕、部分的にはそれに近い。だが、やっぱり夏目漱石だ。会話文になるとすごく親しみやすくなる。また、会話文のみならず、所々笑わせる。面白いところはたくさんある。

西洋絵画

私は大学で絵の勉強をした口なので、よく理解出来た部分がある。絵の勉強と言っても、描いたのではない。理論の勉強というか、芸術論の一環で、美術史などを学んだのだ。

草枕の主人公は画家で、しかも西洋画家という設定なので、西洋の絵の話も出てくる。よく出てくる「オフィーリア」の絵は、西洋絵画ではよくモチーフとして描かれたものだ。オフィーリアは、シェークスピア作「ハムレット」に出てくる女性で、小川で溺死する。なので、オフィーリアを描いた絵は、小川に流されている。

他にも西洋画の知識が無ければ書けない事が色々出てきた。若冲の絵の話も出てきた。夏目漱石の知識の深さに感服した。英語の先生だったのだから、英語の詩が出てきても驚かないが、漢詩が出てくるのは少し驚く。そして、その漢詩にはふりがなもない場合があり、いや、読む方は難しい。最近の本だと注釈が付いているのだろうか。

注釈と言えば、さくさん付いている。だが、それをいちいち読んでいては物語が進まないので、よっぽど気になった物しか注釈を見ないようにしている。教科書を読んでるんじゃないんだからさ、と。そうやって夏目漱石全集を読んでいるのだが、この草枕は特にその注釈なしではきつかった。

絵を描かない画家

それにしても、特にスランプだという話でもないのに、とにかく絵を描かない、描けない事には驚きだった。詩ばかり書いているのは、やっぱり作者が画家ではなく小説家だから・・・と勘ぐってしまう。それで、結局最後まで描かない。いや、一度だけさらっとメモ程度に描いたが、それも最後から2ページ目とかそのくらいの終わりの方にやっとだ。

終わりには、これで描けるという状況になる。だから描くという事なのだろうが、結局物語の間には描かなかったと言ってもいい。もう少し、描いて欲しかった、と私は思った。

精神世界

芸術をやるものはこうあるべし、というような事に多くページを割いている。現実世界を離れて、とか。文明を離れて、とか。明治時代は時代が大きく変わる時期だっただろう。夏目漱石は幕末に生まれているので、世の中のめまぐるしい変化を見て、思うところがあったのだろう。まさに、そんな想いを込めた小説だと思う。

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