終戦記念日の翌日、義母が一冊の本を持って来た。
「昔のだけど、中島さんの戦争の本が出てきたから」
作者の中島信子さんは、義母のお友達だ。いつも本が出る度に、義母は私にもその本を貸してくれる。
夏休みも終盤。終戦の日の直後にこれを読み、感想文を上げたら、きっと宿題の参考にたくさん読んでもらえる。
と思ったのだが、その直後に旅行に行き、帰ってきたらブログを書き、書き終えるとイベントに参加し、その事を書いたブログも上げて・・・とやっていたら、多くの小学生の夏休みが終わってしまった。
だが、まだ終わっていない学校もあるし、宿題の最後の追い込みでこの日曜日に読んでもらえるかも。と思った私は昨日、サクサクっと読んで、ちゃちゃっと感想を書いちゃえと思った。そして、読み始めたのだが・・・
ガツンとやられた。そんな、ちゃちゃっと書いてしまえるような感想じゃなかった。
児童書ながら、涙して読んだし、これは30年以上前に書かれたものだが、今でこそ読まれるべき作品だ。
と言う事で、みんなの夏休みが終わってしまっても、一日練ってちゃんと書こう、と思ったのである。まあ、ブログは来年も読んでもらえるかもしれないしね。
というわけで、みんなのお手本になるような感想文を書くぞ。
あらすじ
小学4年生の由子(よしこ)は、一緒に暮らすおじいちゃんの事が嫌いだった。頑固でうるさくて、お母さんに嫌なことをするおじいちゃんの事は、心の中で早く死んじゃえと思っていた。ところが、元気そうだったおじいちゃんが、突然倒れて死んでしまう。
亡くなる直前に、おじちゃんは「許してくれぇ」と言った。子供が自分を憎んでいる、というような訳の分からない事を言って、息を引き取ったのだ。
その後、由子は近所でおじいちゃんにそっくりな人に出会う。その人のことが気になって、後をつけて行って家の門の中に勝手に入ってしまう。
そのおじいさんは、由子のおじいちゃんの戦友の冬彦だった。冬彦も、全く笑わない、近所づきあいもしない偏屈じいさんだと思われていた。だが、由子のおじいちゃんも、冬彦も、元々頑固で偏屈だったわけではなかった。戦争の体験が、そうさせたのである。
由子と冬彦は次第に歩み寄り、仲良くなる。そして、戦争で体験した事を、冬彦は由子に語る。
中国人の子供を殺した事、冬彦の奥さんと娘さんが広島の原爆によって亡くなった事、二人の戦友が戦後、自分達の罪を重く背負い、幸せになってはいけないと思って過ごして来た事。
冬彦は、今まで笑わずに、誰ともつき合わずに生きてきたが、そうすべきではないと気づいた。そして、今までは口を閉ざしてきた戦争の体験を、これからは語っていこうと決意したのである。
つかみはOK
冒頭の書き出しが新鮮である。
「誰にでも親友がいるように、青木由子にも、親友がいます。・・・でも、由子の親友は、ちょっと変わっています。由子よりも四十六歳も年が上の、田宮冬彦という名の、おじいさんです。」
こんな風に始まる。どうして少女とおじいさんが「親友」になったのか、とても気になる。戦争の話だとか、平和教育がどうのとか、そんな事を先に開いていたとしても、この書き出しでおや?と心を掴まれる。興味をそそられる。流石である。
葬儀の描写が詳細に
おじいちゃんのお通夜、お葬式を自宅でする事になった由子の家。だんだん自宅でする人も減ってきたと思うのだが、けっこう細かく書かれている。小学生の読者の中には、葬儀を知らない子も多いだろう。そんな子供達の為に、敢えて詳しく書いてあげているのかな、と思った。
それか、今は足が痺れるのを我慢して正座するなんて、そんなお葬式はなくなりつつあると思うが、歴史資料として残そうという意図があるのかもしれない。いずれにしても、有意義である。
冒険
由子が田宮邸を訪れ、こっそりと門の中に入り、家の中を覗くシーンが何度も出てくる。これはドキドキである。そして、子供の頃にそんな経験をしたなーと思い出される。あれ、今の子はそんな事しないのかな。とにかく、この冒険シーンは、読者をワクワクさせてくれるに違いない。
話は原子爆弾へ
由子のおじいちゃんが倒れたシーンでは、
「ああ、この人は戦争で子供を殺したんだな」
と察した。そして、戦友の冬彦もその事を背負っていると思っていたら、それだけではなかった。
冬彦が広島出身だという事は、由子のおばあちゃんの口からちょろっと出ていたのだが、その時には気づいていなかった。後になってはっとするのである。冬彦の家族が被爆して亡くなったと知る事になる。
この本の主題が、戦争体験者の話ともう一つ、被爆者の話でもあると分かるのである。
語れる人がいなくなっていく今
戦争に行った人は、その体験を語りたくない。皆口を閉ざす。当然だろう。自分が悪いことをしたと分かっているからこそ、口にしたくない。思い出したくもない。
それでも、これからの子供たちが、戦争とは何たるかを知らずに大人になっていく事は危険である。
だから、是非語って欲しい。酷なことだとは思う。それでも、話す事で、心が救われる事もあるのではないか。
今ではタブー
それにしても、いくら年が離れていると言っても、他人である男性と少女が二人きりで仲良くするというのは、危険だろう。
何度も言うが、これは30年以上前に書かれたもの。70代の男性が小学生の女の子に性的興味などあるわけがないという前提で書かれている。当時の社会的認識では、そうだったのかもしれない。しかし、実際にはそうとは限らない。また、性的興味ではなくとも、独り占めしたいなどと考え、誘拐・監禁するという事も考えられる。
つまり、このような由子の行動は危険なのである。その辺は、親御さんがきちんと伝える必要があるだろう。ほんと、おじいさんとは言え、男の独り暮らしの家へのこのこ入って行って・・・今では絶対にあり得ない。やめよう。
ロシアとウクライナの戦争
第2次世界大戦以降、日本では戦後と言っているけれど、世界では内戦を含め、多くの戦争が行われてきた。そして今、ロシアとウクライナが戦争中である。実は、日本もいつ巻き込まれるか分からないのだ。
決して戦争をしてはならない。戦争に加わってはならない。敗戦後、日本人は耳にたこができるくらい、たくさん聞いてきた。今の大人は、つい「もう聞き飽きた」「みんな知ってる事だから敢えて言わなくても」などと考えてしまうかもしれない。
しかし、語られなくなったら、その後に生まれた子供達は知らない事になる。毎年毎年、原爆の日や終戦記念日には、戦争の悲惨さを語り、子供達に戦争をしてはいけないのだと、言って聞かせなくてはならない。
なかなか教えるのは難しいかもしれない。それなら、こんな楽しくて為になる本を読ませて、一緒に語り合うのも良いのではないだろうか。親子で読んで語り合って欲しい本であった。
「白い物語」という題名
読み終わってみると、この題名の意味が分かる。ああ!そういうことか!と合点がいく。面白い。
だが、題名からは戦争の話だという事が分からないので、副題でも付けて分かりやすくした方がいいのではないか、と思ってしまった。戦争の事を学ばせたい、と思った人が手に取りやすいように。
最後に
以上、読書感想文であった。お手本にはならなかったかな?少なくとも、このまま写して宿題提出というわけにはいかないね。でも大丈夫。読み終わって、何を感じたか。それをメモしていって、並べて書いて行けばいいんだよ。
文章を書くときには、格好つけようと思わないでいい。素直な、自分の言葉で書く事が大事。その方が、かえって格好良いんだ。と、チョコナッツは思っている。
それから、この文章にはむずかしい言葉や漢字がちょこっと使われている。ぜひ大人に質問してほしい。
では、読書感想文の宿題、頑張ってね。
白い物語(原爆児童文学集)中島信子 著 https://amzn.to/3TGudCU