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【読書感想文】マイケル・サンデル「実力も運のうち~能力主義は正義か?」

読みにくい本?

有名な本だと言って、夫が読んでいた。でも、ちょっと進んでいないのだとか。表紙を見たらなんだか面白そう。それなら、私が先に読ませてもらおうという事で、読み始めたのだが……。

いやはや、夏の旅行の飛行機の中で読み始めたのだから、8月から11月まで、ほぼ3か月かかってしまった。もちろん読書ができない日もあったが、隙間時間にちょこちょこ読んでいたのだけれどね。

何しろ、読みにくい。英語を翻訳したからというのもあるだろう。何度も同じことを繰り返し言って来るし、何か比喩的な表現をして、つまり~と続くのだが、最初から「つまり」の後を読めば良かったと思うくらい、比喩が分かりにくくて3回くらい同じ文章を読んでしまったりする。進まない。

だが、序盤からもう、目からうろこ。ずっと正しいと思って来た事が覆された。そのくらい、衝撃的な内容だった。

アメリカの事を主に書いている。アメリカは今、どうなっているのか。この本が書かれたのはトランプ大統領の1期目だった。なぜ民主党が破れ、共和党のトランプ氏が勝ったのか。なぜ、世界中でナショナリズムが台頭してきているのか。その理由が分かる本である。

しかし、途中から急に読みやすくなる。7章プラス結論の章があるうちの6章辺りから。全体の3分の2を過ぎた辺りからだ。それまでの定義づけを終え、本題に入り、結論を示してくれたからだろうか。とにかく、途中で放棄している人がいたら、あともう少しだから頑張れ、と励ましたい。

さて、次からは感想を書く。章ごとに分けるわけではないが、ざっくりと書いてある順に従って内容と、それについて考えた事を書いて行こうと思う。もし、この本を読むのを断念した人がいたら、こんな事が書いてあったのか、と確認できるように書いていきたいと思う。

平等な社会とは

アメリカは今、格差社会である。社会的格差、貧富の格差を是正するには、何が必要か。

リベラル派、民主党、オバマ大統領は、教育が必要だと言った。教育を受ける機会平等に与えれば、世の中は平等になるのだろうか。

私は、オバマ大統領は正しい事を言っていたと思っていたし、教育を受ける機会が平等に与えられているならば、後は各個人の努力次第で上へいける社会システムは、正しい事だと思っていた。頑張れば誰でも上へ行けるという「能力主義」は一見良いように見える。しかし、この本を読んだら、それが実は正しくない、良くない事だと分かったのだ。

確かに、前近代的な貴族社会、身分社会は良くなかった。そこからの脱却として、機会が平等に与えられるのは良い事だった。だが、上へ行かれなかった人はどうなる。頑張って大学へ行く事は良い事で、アメリカでは国を挙げてそれを推奨した。教育が大事、頑張って上へ行こうと。しかし、実際アメリカの4年制大学以上の学位を持つ人は約半数でしかない。日本もそうだ。その、大学へ行かれなかった人はどう思うのか。

学力の差が貧富の差に等しい世の中。学力の高い人は、自分が頑張ったお陰で今の地位があると思う。一方、学力が下の人も、自分がダメだったから下にいると思っているという。そうして、上の人が下の人を見下している。ちっとも平等な社会ではない。つまり、教育が大事、大学に行くべきだ、と大統領が語る時、既に大学に行かれなかった人達は、どれだけみじめになるのか、という事だ。大学に行かれなかった人の事を、結局は見下しているという事なのだ。

学力至上主義

能力主義は、学力主義と言い換えてもいい。学力が上の人が勝ち、下の人は負ける。頑張らなかったのが悪い、と自己責任にされる。学力の差は、本当にその人の頑張りの差なのか

筆者はそうではないと言う。日本でも親ガチャと言われるが、親の財力や環境によって、学力には差が出る。統計的に見ても、上位大学に行く学生は、富裕層に偏っているそうだ。

アメリカでは、いつの間にか大学受験がすさまじいものになっているらしい。コーディネーターに大金を払い、あらゆる管理を任せ、アイビーリーグと言われる超一流大学に合格させようとする。もちろん、上位数%の金持ちしかできないことだ。よって、アイビーリーグは上位数%の金持ちの子どもが多くを占める。

ちょっと聞いた事はないか。私の前のブログに書いたが、韓国ドラマ「スカイキャッスル」と同じだ。そう、この本の中にも書いてある。不平等の激しいアメリカや韓国では、親が子供の受験に必死になり、過干渉になる傾向が強いと。不平等がさほど深刻ではないスウェーデンや日本ではあまり高じていない現象だと。

そして、この親の受験に対する熱や過干渉が、子供を追い詰めるとも書いている。学力の高い大学の学生ほど、無気力になったりうつ病になったりする割合が多いそうだ。もしくは、競争して勝つ事の味が忘れられず、大学に入ってからも競争をするそうだ。サークル活動でも、試験で優秀な成績を修めた新入生しか入会させないとか。そして、ずっと先生や親の言う通りにしてきたので、自立心や主体性がないと。

子供の将来の為に、親は必死になったのだろう。しかし、結局は過度な期待が子供を潰してしまう。ああ、アメリカはそんな国ではなかったはず。日本が学歴社会と言われた頃、アメリカの大学は入るのは楽で出るのが大変だと言われたものだ。しかし、今やアメリカでも一流大学に入るのにものすごい競争がある。みんながみんな、上の大学に入ろうとする。だから倍率が上がる。その一流大学に入れば、その後は成功したも同然だとみなされている。それが能力主義の社会なのだ。

この問題を解決するのは難しいと思ったのだが、何と筆者は解決策を示した。それは、くじ引きを導入するというもの。

アメリカには、大学入試の為の共通テスト「SAT」という物があるらしい。IQを測るのだ。そこである程度の学力がある学生を集めたら、後はくじ引きで入学者を決めればいいと。

なぜそういう理論になるかと言うと、つまり一流大学に入れたのが、能力・努力だけではなく、運も関わっていた、という事実(建前)が必要だというのだ。

結局、経済力の差と学力の差は、変わらないのだ。金持ちの子が良い大学に、結局は行くのだから。もちろん、統計的にだが。それなら、貴族社会と同じなのだ。だが、違うのは子供が必死に頑張らなければならないということ。それだけ気の毒だと。

そう、金持ちに生まれたかどうかの「」が相当の割合で学力に関係してくるのに、必死に頑張らなければならない。これをくじ引きにしてしまえば、加熱する受験熱も収まるのではないか。確かに、どの大学が1番だとか2番だとか言ってしのぎを削るより、その方が学生も少しは気が楽になるだろう。どの大学に行っても、同じように学問が学べるようにすればいいのだ。

ナショナリズムの台頭

なぜ、白人労働者がトランプを支持するのか。なぜ、白人労働者は不満を募らせているのか。

大卒ではない労働者は、職を失いつつある。それは、グローバリゼーション移民のせいで、仕事を奪われたからだ。民主党の掲げる多様性は、マイノリティなどに機会を与えた。それはいいが、白人には白人だと言う下駄を履かせてもらっているだろうと、頑張りを差し引いて見るという。

学歴社会のせいで、大学に行かずに仕事をしている労働者の事を、社会全体が下に見るようになってしまった。仕事がなくて経済的に苦しいという事よりも、労働の価値を蔑まれるという事、尊厳を踏みにじられているという事がつらいのだ。

人は、社会の役に立っているという自尊心が必要だ。それなのに、そんな労働は要らないと言われたら、労働者はつらい。そう、だから団結し、トランプを支持し、グローバル化や移民を嫌うのだ。

この現象の一番の悪者を、筆者は「金融」だと言う。医者と比べても、投資家は莫大な富を得る。それでは、どちらの方が社会的意義があるか。国は、GDPを押し上げる事に重きを置いた為、金融を伸ばそうとした。生産よりも金融の方が税金が安いのだ。

筆者はここでも解決策を示している。ずばり、金融税を高くする事だそうだ。そして逆に労働者の税を下げると。

コロナ禍に、我々は思い知ったはずだった。スーパーの店員や物流業の職員、介護師や看護師、ゴミを集める人がどれだけ重要かという事を。それなのに、まだアメリカ社会では意識が変わらない。エリートの職業は、それらエッセンシャルワーカーよりも賃金が高く、その高い賃金に見合った価値があると思われている。

税の解決策だけでなく、お互いに話し合う事が大事だ、とも筆者は言っている。今、アメリカは分断している。自分がどのコミュニティーに属しているかを忘れがちだ。コミュニティーの中で、お互いの仕事の重要性を理解し合い、ただ分担しているというだけで上も下もない。その意識改革が、分断を少しずつなくしていけるだろうと。

まとめ(筆者の言いたい事)

能力主義(メリトクラシー)だとか、テクノクラート、共通善など、聞きなれない言葉が多用され、理解に時間がかかる本であったが、トランプとかオバマ、クリントンなどと知っている人名が出てくるとちょっと身近に引き寄せられる。そうやって、何とか最後まで読めた。

アメリカと韓国が同様で、デンマークや日本が違うという話が出てきた時には、思わずテンションが上がった。そこからは一気に読み進めた。

筆者はつまり、学歴とか実力というのは、自分の頑張りだけでなく、運が良かったからこそ達成できた事なのだ、と言いたいのだ。

私も最初は、病気や怪我で働けなくなった人が貧しいのは、本人のせいじゃないよな、くらいには理解していた。しかし、この本を読んだら、そんな狭い意味ではなく、頑張った結果のように思えるあれやこれやも、やっぱり運が関係しているのだと思わされた。

例えばスポーツ選手も、自分が得意なスポーツが、たまたま社会的に評価されるスポーツだったから、それで身を立てられるのだ。顔が良いと言われる人も、その良いという基準が時代によって違うという事は、みんな理解できるだろう。

だからこそ、貧しい人や学歴の低い人の事も、もしかしたら、それは自分だったかもしれないと思って、見下したりせず、謙虚な心を持って、寛容な社会を作って行こうという事なのだ。

この本が有名になったのもよく分かる。現代人の多くが誤解している事を、ずばりと指摘してくれた。私も本当に、このおかげで目が覚めた。

比較的、日本が不平等の激しい国ではないというのは、あのバブルの崩壊があったからかもしれないな、と個人的に思った。怪我の功名というやつか。

それでは今日はこの辺で。しばらくこの本にかかりきりで、積読本が増えてしまった。これからは、もっと読みやすい物語を読んで、どんどん感想文を上げていく予定なのでよろしく!

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