モッサリ
日曜日の夜。夫が言った。
「・・・そろそろ床屋行ったら?」
そんな事を言うのは珍しい。大抵、私が勝手に行きたい時に行っている。しかし、この2~3日で急に暑くなり、伸びきっていた髪がモッサリしていてあまりに暑苦しい様相だったのだろう。
「明日行く」
言われるまでもなく、昼間美容院の予約を入れいてた。土日だと混んでいで、予約を取れたとしてもいちいち待たされるので、月曜日まで待っていたのだ。
出た、あの美容師
さて月曜日。14時に予約していたので、ぴったりに訪れたいつもの美容院である。
案内されて座った鏡の前のテーブルに、名札が置かれた。お、見慣れた名前。確かこれは・・・
「おっ待たせしましたー!」
出た、声のでかい美容師。
「はい!今日はどうしましょうか!?」
威勢が良い。
この人、他のお客が入店したり帰ったりする時の
「いらっしゃいませー」
とか
「ありがとうございましたー」
とか、美容師なのにまるで八百屋の店員。このご時世であるが、無駄に大声を出す。マスクはお互いにしているが。
ただし、割とこちらの要望にちゃんと応えてくれるのは良い。よく、こうして欲しいとこちらが言っても、なんだかんだ理由をつけて、勝手な髪型にする美容師もいるから。
「メッシュにされたんですね!反応はどうでしたか?」
などと言われた。そうそう、実家に行ったけど、父も母も何も言ってなかった。あまり気づかれなかったと言ったら、驚かれた。父と母は、うちの長男が金髪にしてから初めて行った時でさえ、こちらが言うまで何も言わず、帽子かと思ったと言ったくらいだからな。
暇なんですよねー
予約をする時に「なるべく静かに過ごしたい」と要望してあるのに、色々話しかけて来る。
話す事は嫌でもないが、話していると体に力が入ってしまう私。リラックスした状態でしゃべる事が出来ない。よって、せっかく髪を切ってもらったりシャンプーしてもらったりして、リラックスすればとても気持ちが良い時間なのに、しゃべっているとその気持ち良さを満喫出来ない。だから、敢えて静かに過ごしたいという要望を出しているのだ。
だが、ちょっと面白い事もあった。
「今日、暇なんですよねー」
などと言ってくる。
「4月を前に、皆さんもう済ませちゃったんじゃないですか?新年度とか新学期の前に」
と言ったが、
「でも、暑くなってきたから、切りたくなる人多いんじゃないですかね」
とも言った。
「そうですよね!それを期待してるんですよ」
と、何だか可愛い。それにしても、確かにその話をした瞬間は他のお客がほとんどいなかったかもしれないが、私は2度くらい待たされて、美容師は他の客の所へ行っていたし、それほど暇でもなさそうだったが。
シャンプーの仕方が!
さて、カラーリングをし終わり、シャンプーをしてくれた。混んでいると見習いの人がしてくれるが、暇だと言うくらいだから、この日は担当の美容師がしてくれた。
力加減もけっこう強めで好みだった。けれども、すごく気になる事があった。
真ん中をやって、右をやって、左をやって、後ろをやる。それを2~3回繰り返すのは普通だ。2回の人もいれば、3回の人もいる。けれども、この人5~6回繰り返したぞ。
洗う時はまだいい。流す時だ。シャワーを当てながら、真ん中、右、左、後ろ。これも普通は2~3回繰り返すのだが、5~6回か、いや、もっとだったか?こちらも夢見心地でいたのだが、あまりに同じ事を繰り返すので看過できなかった。いや、したけれど。何も言わなかったけど。老婆心ながら、水がもったいないというか。
何というか、こういうのって脅迫障害って言うんだっけ?もしくは潔癖症?もちろん、他の事には感じなかったし、きっと病気な程ではないのだろう。かく言う私も、その毛がある。いや、その気がある。確かめたのに、分かっているのに、どうしてももう一度確かめてしまうとか。ファスナーが閉まっている事を確認したのに、もう一度どうしても触って確かめたくなる。思う存分やると不審者になるから、我慢する。うーん、生きづらい人生じゃ。私はよっぽどおかしいのだろうか。
で、この美容師に、ちょっと親近感を感じてしまった。
ああそうか。この人、無駄に大きな声出したり、威勢が良いのって、コミュニケーションが苦手だから、頑張って元気よくしているのではないか。相手が楽しくなるように、いつもすごく頑張っているのではないか。
そう思ったら、変な人だと思っていた気持ちがふっとんだ。まあ、好きになった訳では無いけれど。
髪型も、思った以上に良くしてくれた。やるじゃないか。ちょっと、髪を減らしすぎじゃないかと思ったけれど、良い良い。
なぜだか少しほっこりして、家に帰ったのだった。