アフィリエイト広告、アドセンス広告を利用しています。あなたの広告への反応が、チョコナッツの収益に影響します。

【読書感想文】池井戸潤「半沢直樹 アルルカンと道化師」

半沢直樹シリーズの最新作が出た!だが、半沢直樹にとっては新しい物語ではない?!

そう、半沢直樹シリーズ第一弾の「俺たちバブル入行組」の約半年前の物語なのだ。

ドラマをご存じの方、そのドラマのシーンの前日譚だ。東京中央銀行の大阪西支店が舞台なのだ。

あらすじ

頭取肝入りの企業買収(M&A)を推し進めようとしている、東京中央銀行。大阪西支店の融資課長である半沢直樹は、仙波工芸社という出版社の買収案件を担当する。

銀行内の出世の事しか考えていない、いわゆる半沢の敵たちが徒党を組み、この企業買収を何としてでも成功させよと圧力をかけてくるが、仙波工芸社は買収に応じるつもりはないし、赤字続きとはいえまだ自力で経営再建できる可能性はある。そこで、半沢は支店長の浅野、営業本部の宝田らと対立する。

一方で、大阪西支店の屋上にある神社の祭りの話が展開する。祭りの実行員会に参加しない浅野支店長。大事な取引先でもある実行員メンバー。いつも浅野は実行委員会に半沢を参加させていたが、とうとう問題が起こる。

半沢の危機一髪かと思いきや、あっぱれ、敵を遣り込める半沢。ああ、気持ちいい。やっぱり半沢直樹はこうでなくちゃ。と、思ったらちょうど小説の半分が終わったところ。

後は、一つの謎が残っていた。企業買収の案件には、少々無理があった。なぜ仙波工芸社が狙われたのか。ヒントは古い雑誌の類。これを半沢は家に持ち帰り、夜な夜な宝探しをするのだが……見つけるのだ。お宝を。

しかし、そのお宝は単純なものではなかった。過去に起きた壮大な美術の物語が始まる。そこに、企業買収の謎が隠されていた。

頭取肝入りの政策に水を差す、やる気のない半沢を引きずり下ろす。そんな計画を立てた宝田たち。美術の謎は解け、後は半沢の左遷をどう回避するのか、回避できないのか。人事部の会議、そして東京での全店会議。半沢はこの場で何を語り、どうピンチを切り抜けるのか。どのみちスカッとさせてくれるのは間違いない。

あの名台詞が!

ドラマの半沢直樹では、

やられたらやり返す。倍返しだ!

という台詞(セリフ)が有名になった。まさに決め台詞だった。しかし、原作の小説には出てこないものだった。原作を後から読んだ人には、ちょっと物足りなさも。

ところが!この小説には出てくるのだー!どこで出てくるのかは、読んでからのお楽しみ。でも、やっぱりちょっと嬉しかった。

それにしても、同期で情報通の渡真利、妻の花、支店長の浅野など、ドラマの印象が強烈で、彼らのセリフを読んでいると、どうしてもこの俳優たちの顔が浮かんできてしまう。花さんなんて、他にあんなしゃべり方をする奥さんはいない、と思えるくらい上戸彩だ。

そして、やっぱり半沢直樹シリーズはスカッとする。そこがいい。社会人、いや学生でもそう。日本人ならほとんどの人が、思ったことをはっきり言えない。理不尽だと思っても、それはおかしいと思っても、その場でズバッと言えるわけがない。ましてや上司になんて。

しかし、半沢直樹は言ってくれる。実際小説の中でも、半沢は同期の星だと、渡真利が言っている。そして、敵が言っていた。半沢は敵も多いが味方も多いと。

一つ、とっても気に入った半沢のセリフがあるのでぜひ紹介したい(抜粋)

「ひとつ忠告しておこう。私にあってお前にないものがひとつある。権力だ。支店の融資課長ひとり動かすぐらい、私にはたやすい。そのことを忘れるな」

と、宝田に言われた半沢の次のセリフ。

「人事が怖くてサラリーマンは務まりません」半沢は平然と笑いとばした。
「やれるもんなら、やればいい。だけど、その前に宝田さん。私はあなたを、全力で叩きつぶす」

やれるもんなら、やってみろと。人事が怖くてサラリーマンなんてやっていられるか、と。くー、言ってくれるね。しかも、あんたを全力で叩きつぶすなんて、本人に指を突き付けて言っちゃうんだからね。かっこよすぎ。現実にこんな人がいたら、むしろ自分も被害をこうむりそうだけど、現代の水戸黄門みたいでいいね。正義は勝つ!悪いやつは滅ぶ!っていうお約束で。

謎解き

謎解きは、もちろん面白い。先が気になる。ただ、それまでの流れるような描写と比べ、謎解きに入ると滞るというか、台詞ばかりになって、でもそれだけではダメかという事で、お体裁に描写を入れてみたり。

いや、私が文章の事を気にしすぎなのだろう。池井戸先生でも、こうなるのだなあと、ちょっと安心したりもする。謎を追いかけていく時は上り調子でいいのだが、解決する時には冗長になりがちだ。いや、ほとんどの人は気にならないと思うが。

作中に「アルルカンとピエロ」を題材にした絵画が出てくる。壁の落書き、二人の画家志望の青年、実家の書簡。そこへ訪ねてきた銀行員。

ワクワクするよ~

芸術家の端くれとして

この話には、盗作とか贋作とか模倣とか、そんな感じの事が色々と出てくるわけだが、この画家の話には解決策がないというか、スッキリしなかった。

銀行の話はスッキリするのだ。スカッとするから安心して欲しい。

だが、画家の話はスッキリしない。私も自分で小説を書いたりするので、創作という面ではちょっとだけ分かる。登場する画家志望の青年たちの、両者の気持ちを考えるといたたまれない。どちらも悲しい。

自分がもし、喉から手が出る程に欲しかった名声を手にすることができたとして、でもそれが、自分が正当に評価されたものでなかったとしたら。それでも嬉しいのか。それは嫌だから手放すのか。究極の選択だ。自分が将来、これ以上良い小説が書けないと絶望し、何か不正を働いたとして、それが高評価を得たら。どんな気持ちでその後の人生を歩むのか。やっぱり、正直に事実を公表してしまうかもしれない。それなら、はじめから不正は働かない方がいい。

そうか、これはそういう教訓にもなる本だなぁ。今頃感心しちゃったなぁ。

屋上の祠(ほこら)

最後にどうでもいい話を。

昔、京浜東北線に乗って窓の外を眺めていたら、ビルの屋上に赤い鳥居を見つけた。

珍しくて、電車に乗る度にじっと見ていた。どうして屋上に神社があるのだろうと不思議に思っていた。

それが、この本を読んで初めて知った。大阪ではよくある事だそうだ。銀行の屋上に祠がある事が。

そこに神社を祭り、その「お祭り」と称して近隣の取引先企業と意見を交換したり、日ごろの感謝を伝えたり、かな?なんか、そういう事をする風土があるそうだ。

あの東京にあったビルは、大阪の銀行の支店なのかな。それとも、大阪出身の人が東京で会社か何かを始めるにあたって、その大阪の銀行の風習を真似たとか。あのビル、今もあるのかなぁ、そして、今も祠があるのかなぁ。

半沢直樹シリーズ、とにかくお勧め。まだ読んでいない人はぜひ!エンターテイメント全開。とにかくスカッとするから。

(最新作)半沢直樹 アルルカンと道化師 (講談社文庫) →https://amzn.to/3NCazb8

(半沢シリーズ第一弾)オレたちバブル入行組 (文春文庫) →https://amzn.to/474GmbK

(半沢直樹2)オレたち花のバブル組 (文春文庫)→https://amzn.to/489QHEu

(半沢直樹3)ロスジェネの逆襲 (文春文庫)→https://amzn.to/48wUPOV

(半沢直樹4)銀翼のイカロス (文春文庫)→https://amzn.to/4atHybw

半沢直樹シリーズ 4巻セット→https://amzn.to/4atLMQp