花盗人
タクミくんシリーズから続く物語。主人公が涼代律になってからは「いばらの冠」「三番目のプリンス」に続く三作目である。
律は音楽大学に通う２年生。母校祠堂学園の吹奏楽部OB演奏会に出てほしいと頼まれるが、演奏会はクリスマスイブ。恋人の祠堂学院３年生中郷壱伊と初めて過ごすイブなのだ。返事は保留とした。だがこの依頼は訳ありだった。吹奏楽部の同学年の中で、律だけが音大へ進んだのだが、高校時代、律は演奏が上手い方ではなかった。律と偶然再会したかつての仲間が、どうやら悪だくみをしているよう。そんな事とも知らずに、リハーサルに参加した律。無茶なパートを即席で演奏させられるが……。
また、壱伊の実家ナカザト音響が、壱伊や律、それに律の友達であり壱伊の先輩である雅貴のトロンボーン三重奏をCMに使いたいと言い出した。急遽オリジナル曲を作る事になり、カラオケルームで打ち合わせをする。壱伊はナカザト音響を将来継ぐ事を考え、難しいT工大への進学を考えていた。が、幼いころからトロンボーンの天才と言われていて、律の通う桜ノ宮坂音大への進学という選択肢も視野に入れている。だが、まだ第一志望はT工大だと言って勉強を続けていた。その心境に変化が現れる……？
律は緊張すると言葉がつっかえる。演奏も、性格を表していて控えめだった。けれども、音大に進学し、つらいトレーニングも頑張っている。昔のメンバーには相変わらず控えめ、というか下手だと思われている律だが、ここでちょっとスカッとする事もあり。ああ、ここまで読んで来て良かったと思える瞬間がある。
前回までは恋愛要素が強めであったが、二人がめでたく恋人同士になったので、今度はそれよりも成功・自己実現という要素が強く出ている。相変わらずクラシックに明るい作者ゆえ、一般の読者は少々置いてけぼりな感もあるのだが、分からなくてもスカッとすればオールOK。
LOVE ME
同じ祠堂学園の文化祭辺りのお話だが、花盗人とは登場人物が違う。でも、これもすごくドキドキして、次の展開が気になるやつだった。
ファーストフード店でアルバイトをしている水品と、その水品の事がどうしても気になって仕方がない、女子に大人気のバスケ部員、嵯蔵のお話。初対面から水品に「嫌い」だと言われた嵯蔵。頭にくるのに、顔が見たくてつい彼のバイト先に行ってしまう。すると、水品が制服を着ている所を見かけ、お坊ちゃま学校だと有名な祠堂学園の生徒だと知る。つい余計な事を言ってしまい、誤解していた事を知り、謝ろうとする。そして、祠堂学園文化祭のバラのアーチのジンクスにあやかり、誰にも見られずにバラを盗み、それを渡そうと試みるのだが……。
何と、かつての名作「ロレックスに口づけを」のスピンオフ作品だと言う。あとがきに書いてあった。そして、その後日談が次のお話だという。
天性のジゴロ
まだあとがきを読んでいなかったので、「ロレックスに口づけを」の後日談だとは知らずに読んでいたのだが、どこか、登場人物の名前に覚えがあった。
「LOVE ME」から繋がっている。嵯蔵の盗んだバラのつぼみが、あれよあれよと言う間に嵯蔵のバスケ部の先輩である斉木の手に渡り、更に祠堂学園の生徒である橋本の手に渡る。橋本は斉木の親友の恋人の親友で、バラはその橋本の親友の妹に渡そうとした。のだが……。
斉木はプレイボーイで、いつか刺されるぞと親友に言われていた。妹の存在も気になる所だ。斉木は進学校にいながら、妹の為に大学進学を止めようとしている。
斉木に身の危険が迫り、妹の事情も明らかに。この後その妹と橋本の間で何かあるのか？ないのか？でもBLじゃないから、やっぱりないかな。
アマビエより愛をこめて・ギイがサンタになる夜は……？
アマビエ～は、タクミくんシリーズの主人公が出てくるとか、ギイが～はファン垂涎、幻の文庫未収録作品だとか、そんな巻末の文言により、大変期待してしまったが。
それを読む前にページ数が少なくなっているので薄々気づいたものの、うん、あまり期待が大きいとがっかりするだろう。なんというか、本編とは関係ないものだ。短い。軽い読み物だ。でもまあ、面白い。
以上のお話が、この一冊に入っていた。いつも読みやすいし、笑いあり、涙ありのハートウォーミングな物語だ。疲れていても読めるし、元気になれる。このシリーズを、ぜひ手に取ってみては。
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