まるで子供用に書かれたような、ですます調の動物がしゃべるお伽話。だが、そこには痛烈な批判が。
目次
あらすじ
メイナー農場には馬や豚、牛、めんどり、羊など、たくさんの動物がいる。人間のジョージは動物たちをむち打って働かせ、収穫はほとんど全て人間が横取りしている。あるとき、年老いた豚のメイジャーが、動物たちに革命を説き、亡くなる。
それから少しして、突然革命が起こる。動物たちは我慢の限界に達し、人間達を攻撃し、農場から追い出してしまったのだ。
それからは、戒律を作り、協力して農作業をし、収穫物を平等に分けた。動物たちは幸せだった。
動物たちの中で、豚が賢いという設定になっている。豚たちは計画を立てるなど頭脳を使い、それ以外の動物は体を使って農作業をした。豚の中でも特に中心的な人物なのがスノーボールとナポレオンだった。スノーボールは演説が上手く、ナポレオンはいつでもスノーボールの意見に反対した。
スノーボールに嫌疑がかけられ、ついには追放される。豚たちは最初の戒律に反し、人間の家に住み始める。他の動物たちがおかしいと思って戒律の書かれた板を見に行くと、いつの間にか書き換えられている。
そして、ナポレオンの独裁がますます色濃くなり、ついには動物たちの虐殺が怒る。それでも、残った動物たちはただ懸命に働いた。いつしか、憎むべき人間と豚たちが手を組み始める。動物たちには、人間の顔も豚の顔も同じに見えてくる。
ソ連の歴史
高校時代に世界史を勉強したにも関わらず、ソ連の社会主義革命について、細かくは知らなかった。というか、覚えていなかった。
訳者のあとがきに親切にも書いてあったのだが、この動物たち、メイジャーはレーニン、スノーボールはトロツキー、ナポレオンはスターリンに置き換えれば、ほぼ完璧に歴史が再現されているようだ。
ロシア帝国がレーニンによって社会主義国になり、その後継者二人のうち、トロツキーは追放され、スターリンに敵対する者達は次々に粛正され、いつしか独裁主義国になってしまった。
スターリンが亡くなったあと、少しはましになったそうだが、それでもソ連は崩壊した。
私が読んで受けた印象
私はこれを読みながら、どっかの国の話だよなーと思っていた。
それは昔のソ連ではなく、今なお存在している国の話。我々日本に距離的に近い国だ。全体主義だと言われている国。一党独裁の国。
どうやって、その全体主義が生まれたのかがよく分かる本だった。これは、子供でも読んで分かるお話だ。実際アニメ化もされたらしい。これを見て、何がダメなのかが、子供でも分かるはずだ。
ダメなのか・・・そう、このお話はハッピーエンドではない。このようにしてはいけない、という教訓を得る為の本だ。端（ハタ）から見たらダメなのは一目瞭然なのに、実際にこういう国が存在している。
もちろん、豚のナポレオンや、それを助ける怖い犬がいけない。けれども、動物たちは無知で、文字も読めず、記憶も曖昧。それで、確か前はこうだったはず・・・と思って確認すると、豚に先回りされて改ざんされているのだ。
誰かが記録していてくれるだろう、誰かが覚えていてくれるだろう、そんな風に人任せで、政治に無関心でいると、あるいはこういう世の中になってしまうかもしれない。選挙にもノータッチ、生活に不便があっても内々で文句を言うだけで何もしない。それでは、もしかしたら我々の国も誰かに乗っ取られてしまうかもしれない。
序文案
作者のジョージ・オーウェルは、序文を書いていたが、後から見つかったとか。
本当は本編より先に読むものだろうが、この本には本文の後に載っていた。
そこには、また別の批判がものすごい勢いで書かれていた。
この「動物農場」は、出版するのに苦労したそうだ。なかなかしてくれなかった。イギリスで出版しようとしたわけなのだが、この内容がソ連を批判している事は明らかで、忖度が働いてどの出版社も及び腰だったというわけだ。
なぜか。この物語が書かれた当時は第二次世界大戦の直後だ。ソ連はイギリスやアメリカ、フランスと共に同盟を組んでおり、ソ連のお陰でナチスドイツや日本軍に勝利したと言っても過言ではなかった。なので、仲間であるソ連を悪くは言えなかった。
また、当時社会主義は素晴らしいという風潮があったようで。
しかし、オーウェルは社会主義者だった。社会主義を批判するつもりはなかったらしい。あくまでもスターリンを批判したかったのだ。
だが、訳者も書いているが、結局今となってはほぼ全ての社会主義国家、共産主義国家が独裁色の強い国になってしまっている。社会主義は理想的な社会かもしれないが、どうしても独裁的になってしまう。オーウェルの意図していない事だが、この物語は、社会主義の行く末を表すものになっているのだ。
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