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文學界新人賞発表に際して〜市川沙央「ハンチバック」

2023年4月16日(日)

敢えて、読書感想文というタイトルにはしなかった。新人賞を受賞した作品が掲載された「文學界5月号」を手に取り、受賞作品と、最終選考作品の選評を読んだ。そして、思った事を書こうと思う。

ハンチバック

新人賞受賞作品は「ハンチバック」という作品だ。ハンチバックとは「せむし」の事らしい。「せむし」は差別用語なのかな。選評では誰も書いていない。医療用語では「ミオチュブラー・ミオパチー」というらしい。作品中にそのように出てくる。

主人公はそのミオチュブラー・ミオパチーの女性だ。冒頭には、変なマークが気になるものの、エロい話で始まっていて、一体どんな物語なのだ?と思っていたら、実は体をほとんど動かせない女性が書いた、こたつ記事。そう来たか、と思った。

ほらね、やっぱり純文学はこれだ。最近、文学賞を受賞する作品は、大抵「社会の弱者」が主人公なのだ。貧困や発達障害、身体障害者など。そして、物語は必然的に暗くなる

しかし、この作品は意外に暗くなかった。いや、私にはそう感じた。主人公の一人称で語られ、その語り口がいかにも「障害者」という雰囲気ではなく、今風で、軽快で、親近感を覚える。考えてみたら、主人公は私と同世代だ。だが、もちろん全然境遇が違う。共感をしたかと言われたら、素直に頷けない。

ただ、気の毒に感じて泣いてしまうような、そういう暗さがない。そう言えば伝わるだろうか。そして、なかなか障害者を主人公にしながら、生々しく性の描写や願望などは書けるものではない。きっとそう言う意味で、読者が度肝を抜かれるのだろう。

最初は、最近クローズアップされた「障害者の性被害」を描くのかと思った。入浴介助を男性にお願いしたら、そこから被害にあって・・・という物語になるのかと思ってドキドキした。だが、違った。もっと意外な展開になった。もっと突き進んで欲しかったが、途中でへたれたと言っても過言ではなかろう。

最後のシーンがまた、難しい展開になった。主人公が変わったのだ。で、もしかして、あの田中さんの妹か!?と思ったのだ。そして、さっきは違った顛末だったが、実は田中さんが主人公を殺していた?などと考えた。でも、最後の最後で「私に兄などなく、私はどこにもいないのかも」と書かれていて、首を傾げた。いや、頭を抱えた。誰か説明して、と思った。国語の授業だったら、先生が説明してくれるのに。

受賞者は晒される

「ハンチバック」を読み終えて、次のページをめくると、受賞者の写真経歴が載っていた。それから、受賞者の言葉と。受賞者、つまり「ハンチバック」の作者は、この物語の主人公と同じ病気を持っているようだった。そうでなければ、医療用語や医療器具の使い方など、こんなに詳しく書ける訳がない、かもしれない。患者の側ではなく、医療従事者の側であっても書けるかもしれないが。だが、私はちょっと思ってしまった。

文学賞を受賞すると、年齢、性別、学歴、職歴、病歴、写真を晒されるのだな、と。

当たり前だろうか?でも、これで著名な作家になった訳でもない。それなのに、そこまで晒されて大丈夫なのだろうか。誰か守ってくれるのだろうか。今のご時世、顔写真本名はかなり貴重な個人情報だ。なんだか、あれだな。デスノートみたいだな。顔と名前が分かれば殺せるという、あのデスノートの設定。今、顔と名前で何でも分かってしまうし、晒されるとどこで誰に攻撃されるか分からない。SPも付かない一般人なのに、いつの間にか有名人として狙われる事があるかもしれない。

ま、ふとそんな事を思ってしまっただけなのだが。

選評

新人賞の候補作品と受賞作と、それぞれの評価を、審査員の先生方が論じていた。私が疑問に感じた「ハンチバック」の最後は、各先生方も分からなくて、ここが不要だとか、きちんと整理されずに書かれているなどと書かれていた。なーんだ、やっぱりそうなのか・・・いや、そうだろうか。作者はちゃんと考えて、敢えてこうしたと思うのだが?最後をうやむやにする事が、美しさを生むと考えたのではないか。それが純文学でしょ、と。

私は自分が分からないだけかと思った。そして、その「わからなさ」が高尚な感じを与えていると思った。でも、審査員がこぞって分からない、残念だ、と言っているのはこちらが残念だ。それなりに、何とでも解釈出来るのではないか。自分の事を棚に上げているが。

また、他の候補作品に対する評価も書かれていた。読んでいないのに評価だけ聞かされるのもどうかと思ったが、これがけっこう勉強になる。で、読んでいるとだんだんこう感じてくる。

「小説書くのって、すごく難しいのだな」

私はたくさん書いている。ほとんどプロットも書かずにインスピレーションのままに書いている。これから文学賞を目指すのならば、きっとそれだけじゃダメなのだろう。それでも、やっぱりインスピレーションが一番大事だと思うのは、ダメだろうか。

次の新人賞を狙おうかと思ったが、やっぱりそれは無理みたいだ。でも、いずれ必ず狙う。それほど手の届かないものでもないような、そんな感じも受けた。これから文學界をちょくちょく読んで、勉強していこうと思う。

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