アフィリエイト広告、アドセンス広告を利用しています。あなたの広告への反応が、チョコナッツの収益に影響します。

【読書感想文】こだま「夫のちんぽが入らない」

本屋の割と目立つ所に、この本が積んであった。通り過ぎて二度見した。え、この真面目な本コーナーにこれ?こんな題名の本が?

そういえば、新聞の広告欄で見たような気がする。表紙には、小池栄子さんとか著名人の一言が載っていて、けっこう感動ものらしい。普通という呪いに苦しんだ女性がどうのこうのと書いてあり、どうやら昨今流行りの多様性の尊重みたいな話のようだ。

だがしかし……。この題名はいいのか?むしろ、これで人目を引いているのか?私も物書きの端くれとして、どんな表題を付けるかには多大な関心がある。著書の内容をある程度表し、できれば読んだ後にクスッとかニヤッとされるような粋な題名を付けたい。なおかつ、知らない人でも目を留めてもらえるような、インパクトのある題名を付けたい。

で、これ?確かにインパクトはある。大いにある。だが、私はこの本を手に取って考えつつ、後ろを男性が通ったので思わず本を置き、その場を離れた。こんな題名では、買うのに抵抗があるではないか。

それでも、気になる。こんな題名がついた小説は、どんな内容なのか。この題名がアウトではないのか。小池栄子さんが褒めているし、きっとアウトではないのだ。うーん、読んでみるしかないか。

ということで、スタスタと戻り、1冊手に取ってレジへ。大丈夫。題名がアレな時は裏返しにカウンターに置けばいい。バーコードは裏表紙に付いているのだからね。

あらすじ

人の数よりも熊の方が多い集落で生まれ育った主人公は、大学進学と同時に東北の地方都市へと移り住んだ。

引っ越し作業をしている下宿先にふらりと現れた男性は、のちに主人公の夫となる。主人公の女性は人とのコミュニケーションが苦手だが、夫となる男性はかなりの変わり者。女性の部屋にいきなり入ってきて、いきなりくつろいでしまうような人だ。

二人は付き合うようになる。自然の流れで性行為をしようとするが、なぜか上手く行かない。つまり、ちんぽが入らないのだ。ドンドンと壁に当たっているようで、一向に進まない。

実は、女性は初めてではなかった。田舎町でよく知らない男性とそういう行為に及んでいる。だから、なぜ入らないのか分からない。

私はここで反発心を覚えてしまった。(あらすじ中なのに感想を挟んですまぬ。)田舎だからという前置きはあるものの、人と関わるのが苦手で、母親から醜いと言われ続けて自分に自信がないという主人公が、中学1年生の時には告白されて同級生と付き合っているし、高校2年生で初体験も済ませている。興ざめだ。醜くて人と関わるのが苦手なら、彼氏なんてできないだろう、と自分の経験から思った。

そういえば、もうだいぶ昔の話だが、テレビで「18歳の女性で、性体験のある人は2割」だと言っていた。テレビや雑誌の言う事を真に受けてみーんな体験していると思っていたのに、なーんだそんなに少ないのか、と思ったものだ。

ま、余談はこのくらいにして、続きを。主人公とその彼氏は、それでも付き合い続けた。一緒にいると楽しいし、居心地がいいらしい。でも、セックスはできない。他人は、恋人同士ならそういう事をしていると思い込み、からかってくるのだが。

二人は結婚する。そして、二人はそれぞれ教師になる。女性は小学校の教員になるのだが、この話は壮絶だ。いわゆる学級崩壊に直面し、児童から暴言を吐かれたり落書きされたり。つまりいじめに遭っている状態だな。夫には言えず、誰にも相談できず、女性は病んでいく。

女性は、ネットで知り合ったおじさん達と会ってセックスをするようになる。一方、夫はこっそり風俗に通っている。つまり、この夫婦はお互いに別の人となら普通にセックスが出来るのだ。

二人はそれでも、時々トライする。ローションを使うと少し入る事が分かった。だが、それでおびただしい出血があるのだ。そこまでしてする事はないと、夫は言う。

仕事を辞めた女性。よそのおじさんと会うのも辞めた。その後病気になり、薬を服用していたが、子供を作る為にその服用も中断する。だが、薬を辞めているせいで体は辛いし、やはりちんぽは入らない。そしてとうとう、夫婦でセックスにトライする事も辞める二人。しなくていいと思ったら、やっとホッとした女性。

まだ回りからは理解のない言葉を掛けられる事もある。だが、子供はつくらなくていい、誰とも比べなくていい、自分たち夫婦のかたちがあるのだから、と思えるようになるのだった。

実は実話だった

あとがきや、その後に収録されたエッセイから、この小説がほぼ実話だという事が分かった。それが分かると、あまり言えなくなるが……。

思った事を書かせてもらうと、私はずっと、夫のちんぽだけが入らない理由を知りたかった。生物学的な理由なのか、精神的な理由なのか。だが、それは分からないままだった。それが不満だった。けれども、実話だったら分からないままというのも仕方ない。恐らく人から言われたのだろうが、何度も「病院に行くという事は全く思い浮かばなかった」と書いている。病院に行けば理由は分かったかもしれないが、病院に行かなかった事を一読者が責める筋合いではない。

結局夫も心の病を患ってしまい、やっぱり教師を一生懸命にやると病むのか、と思わざるを得ない。これも実話なら仕方がない。もちろん、ちゃんと元気に教師を続けている人だってたくさんいるのだろうが、この本を読んでいると100%病んでいる。ちょっと救われない。だが、主人公は一度辞めてからも、また非常勤として学校で働くようになるのだ。それは少し救いだろうか。

主人公は母親とあまり上手く行っていない。母が最初の子育てに余裕がなく、ヒステリックを起こしたりしたからだろう。私もそうだったから、ちょっとドキッとする。子供(主人公)はそれで、大事な事が言えない性格になってしまったようだ。子育ては本当に難しい。後から上手くやっても、取り返しのつかない事もあるのだろう。

共感できると思ったら

この本を読む前、何となく予想していたのは「私と同じかもしれない」という事だ。

性教育などほとんど受けて来なかった我々は(今の若い子もそうかな?)どこかからの情報で、初めての性体験は「痛い」「血が出る」「最初は痛いが、そのうち気持ちよくなる」ものだと思っていた。

ところが、実際は違った。私も「入らなかった」のだ。もう子供を2人も産んだ後なので、どのくらい痛かったのかは忘れてしまったが、あまりに痛くて相手が気の毒がって、出来なかったのだ。

何度トライしたのかも忘れたが、何回か試しても入らなかった。私はとても不安だった。その相手と結婚したいと思っていたのに、このままセックスできなかったら結婚できないと思ったのだ。そりゃ焦ったさ。相手は大丈夫だよ、なんて言っていたけれど。

まあ、実際はそのうち入ったのだが、初めて入ったのに出血しなかった。当然疑われたよね。初めてだとウソをついたと思われたよ。けど、ウソをつくなら1回目だけでいいと思う。それに、いつも最初は痛くて、あまり好きじゃなかった。いや、実は嫌だった。本当はしたくなかった。でも、嫌われたくないからOKしていたのだ。

主人公は多くの男性と体験した。そして、誰としてもセックスを好きになれなかったようだ。私がもし、同じような事をしたら……いやいや、好きでもない人となんて、近づくだけでも嫌だわ。病んででもいないとあんな事は出来ない。そう、主人公は病んでいたがゆえ、命を自ら断つ代わりにしていた事なのだ。

そういう訳で、きっと共感できる内容だろうと思って読み始めたのだが、最初から初体験は早々と済ませているし、どっかの情報通り出血したようだし、自分が醜いなんて言っているけれどもモテモテじゃないか、などと思ったりして、共感などできなかった。

教師としての話はつらいし、それでいて時々「夫のちんぽが入らないのだ」という言葉を挟み、笑いを呼ぼうとしているようで、ちょっと笑えないんだけど、と思った。

気になるからどんどん読み進めたものの、こんな題名なのにおふざけでもなければ、ましてや艶めかしい内容でもなかった。いろんな人とのいろんな性描写はあるものの、どちらかというと顔をしかめてしまうような内容だ。

ただ、子供がいない人、欲しいけどできない人もいれば、欲しくない人もいるだろうが、そういう人に対しての配慮のない言動はよくない、という事はよく分かる。子供はまだ?とか早い方がいいわよ、などと言うおせっかいな人はだいぶ減ったと思うが、子供のいない人がいるところで「子育てした事がないから、子供や保護者の気持ちが分からない」というような事を言ってしまう事がないよう、気を付けるべきだ、という事はよく分かった。

さらけ出す

文章を書くという事は、自分をさらけ出す事だ。それが私小説やエッセイならば、内面のみならず生活全てをさらけ出す。私がこのブログを書いた事も、本当は他人に知らせるべきではない内容が含まれている。もちろん葛藤もある。だが、対面を繕っていては、面白い物は書けないし、何も伝わらない。本当は、フィクションとしてほぼ実話を書くのがお得(?)なのだが、読書感想文ではそうもいかない(笑)

この作者、こだまさんは、実名も顔も出さずに作家をしているらしい。小説家だからって顔や本名を明かす必要はないと思う。彼女は、この私小説を書いた事で前向きになれたようだ。

色々考えさせられるし、世の中の一部を照らし出している作品だ。題名から入ってもいい。気になったのはら是非、一読をお勧めする。小池栄子さんもお勧めしているしね。↓↓↓

夫のちんぽが入らない (講談社文庫 )こだま (著)→https://amzn.to/3S2Syoj