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【読書感想文】五条紀夫「私はチクワに殺されます」

はっきり言って読後感はよくない。

最初はホラーだったのか?と思い、次にやっぱりミステリーだったのか、と考え、しかし最後になってSFだったのか?と首を捻り。

最後にどんでん返し的な、実はこうだった~のびっくりがあるのだが、奇をてらうがあまり、説得力に欠けると言うか、すっきりとこれがこうだから!という得心に至らないというか。

まあ、人それぞれ感じ方が違うとは思うが。

それでも、あまり他で見ないような構成である。独特で、最後までどうなるか分からないという点では評価できる。

それでは、順を追ってもう少し詳しく見ていこう。

東京都練馬区郊外の借家で、50代男性とその妻の死体が発見された、というニュース記事のような文章から始まる。無理心中とみられたが、男性の胸ポケットからは手記が見つかり、部屋にはおびただしい数のチクワが転がっていたという事。

なんと不可解な。その手記には何が書かれていたのか。気になるところである。この序はのちに重要な役割を持つ。必ずこの本を読んだ人は、最後にまたこの序を読み返すに違いない。

第一章 手記

そして、第一章はその手記の内容が書かれている。手記なので、50代男性が書いたもの、つまり一人称で書かれ、言葉遣いは敬語。どちらかと言うと慇懃な感じの。

その言葉遣いが少し読みにくい。そして、なかなか事件の話にならないので少し退屈してしまう。

だが、しばらく読み進めていると薄気味悪くなってくる。小説というのは、地の文が正しいというか、主人公の考えている事は正義であるのが一般的だと思う。だが、この手記の書き手は、最初は正しい事を言っているようだが、だんだんと狂って来る。狂っている気がする。しかし、それを正当化するような文章なので、混乱する。それが、恐ろしい。

頭の中にハエがいるとか、頭の中の歯車がどうとか言った昔の文豪もびっくりの、狂った感じの主人公。ぞわぞわしてくる。

内容はこうだ。チクワを通して人を見ると、その人の最期の姿が見え、その直後にその人が死ぬ。男はその事実を知り、世界の人々を守るため、チクワをこの世から抹消しようと考える。

チクワを買い占めようとしたり、人がチクワを買うのを阻止しようとしたり、チクワの穴を塞ごうとしたり。まあ、恐ろしいながらも、ちょっと笑ってしまう事もある。

だが、笑ってもいられなくなる。だんだんと男は殺人をし始めるのだ。自分は世界平和の為に頑張っているのに、と感情的になり、自分をバカにする人などを消しにかかるのだ。おお怖。

ということで、人が恐ろしい死に方をするものだからホラーかなと思った。これR12指定した方がいいのではないか?

第二章 インタビュー

これまた、変わった書き方をされている章だ。

すべて、話し言葉。手記を書いた男のの言葉だ。記者だかルポライターだかのインタビューに答える、その言葉が続く。ライターの言葉は省き、娘の言葉だけが書かれている。

まあ、書き方はいいとして、娘は手記の言葉、つまり父の言葉が正しくないというような事を言いだすのだ。

え、そう言う事?それってつまり、SFって感じではなく?なるほど、そう言われると全くその通り。だが、あまり面白くないような。

という感じで、短めに終わる。

第三章 小説の断片

第三章は、また客観的な、三人称で書かれている。が、どちらかと言うとライターである男の主観に近い感じで書いてある。第二章でインタビューをしていたライターの男が、娘である聡美を呼び出す。無理心中があった現場、つまり聡美の実家へと、である。

ここで、ライターの男は聡美を殺人犯と疑い、推理を展開する。ちょっとおふざけもあるが、概ねチクワ事件の見方を変えるミステリーとなっている。

え、そういう事なの?いや、違うのか?聡美とライターの攻防が展開し、読んでいるこちらもハラハラする。なかなか面白い。

のだが……。どうしてそっちへ行っちゃったかなぁ。結局SFなのか?

また、序とほぼ同じ文章から始まる。しかし、少し違う。うそー、序の文章ってそういう事だったのー?と思ってびっくり。

だが、それならちょっとおかしくないか?

と、まあ少しモヤモヤするのだが。

ここまではネタバレなし。もし、読んでみたいと思った方は、是非下のリンクからどうぞ。私の、おかしくないか?を読みたい人は、その先へと読み進めてほしい。

私はチクワに殺されます 文庫 – 2024/8/7五条 紀夫 (著)https://amzn.to/3EM6gsc

ネタバレ注意!モヤモヤの正体

読んだ後の方、もしくは読むつもりのない方はこちらへ。

チクワを覗くと人が死ぬ。聡美の父はそれを発見し、チクワを買い占めたり、スーパーなどで営業妨害したり、万引きをしたり、邪魔をする人をチクワを使って殺害したりを繰り返す。

しかし、第二章のインタビューでは、聡美の父は認知症だったという話になる。記憶の欠如と妄想。それを言われたら、なんだか他人事というか絵空事ではない気がした。誰でも認知症になり得る。そして誰でも、チクワを覗いたら人の死にざまが見える、という妄想をしてしまうかもしれない。そして、自分が殺したという記憶は欠如し、全てチクワのせいにしていたら……。違った意味で怖い

なので、第二章ではSFでもホラーでもなく、なんだか現実味を帯びてきた。そうすると、ちょっと興ざめだった。怖いと思っていた事が、なーんだそういう事か、という風になる。

しかし、第三章ではまた違った解釈が展開される。確かに聡美の父は認知症だったが、殺人などは犯していないという話になる。しかも、手記を書いたのは聡美だというのがライターの言い分だった。

練馬近辺で起きた事故や火災を勝手に父親と結び付け、手記に書いた。本当はチクワを覗いたわけでもなければ、死にざまが見えたわけでもなかった。確かにチクワを買い集めてはいたが、それ以外は本当にあった事ではなかった。

そして、両親の無理心中は、聡美が殺害して心中に見せかけただけなのだ、というのがライターの見立てだった。

聡美は反論する。最後まで何が本当だか分からない。聡美は犯人なのか?そうではないのか?

ところが……

うそでしょ。聡美はチクワを取り出し、その穴からライターを見る。そして命令を下す。

ライターは命令に従ってしまう。体が勝手に動く。そして、チクワ事件に関わった人が次々と死に、聡美はチクワの神になるとか何とか。

ライターは必死に手記を書く。そして、やっぱり自ら自殺してしまう。それはチクワの力が働いたという事になるらしい。

そして、になるとまた東京都練馬区郊外の借家で2つの遺体が見つかるのだが、50代男性の職業は元ライターと書かれ、序にはなかった情報が加わった。やはり胸ポケットには手記が入っていたのだが、その手記は「手記」「インタビュー」「小説の断片」からなるものだったとか。

えー、結局チクワの力は存在するわけー?そういうSF小説なわけー?

それで、序に出てきた話はライターだったとして、第一章の話は聡美の父親の話という事でいいわけ?

なんだか混乱だらけだ。

まあ、幽霊映画も怖いのは幽霊が出る前までで、実際に姿を見てしまうと怖くなかったり、がっかりしたりするものだ。

これも、そういう事なのだろうか。チクワの秘密は書かれていた。動物の死骸に穴を開けてそこから向こう側を覗くと、願いが叶うという秘拷穴(ひごうけつ)という物があって、チクワは魚のすり身、つまり死骸だからという事みたいで、それはなかなか説得力があって面白かった。

だが、最後に聡美がライターに命令をして(チクワを覗きながら)殺戮を繰り返し、最後にはライターも自ら命を絶つという結末が、ジェットコースター的に終わるのが、どうも納得がいかない。ような気がする。

急に聡美が開き直り、自らチクワの神になり、悲しみも何もないチクワの世界に行くとか言い出すのもちょっと。父親の認知症のあたりは現実にありそうで怖かったのに。

とはいえ、上手くまとまって、しかも最初のあれはこっちかー!となる辺りは流石というか。そこを面白かった!と思える人もきっと多いだろう。

短い中に、これだけ恐怖混乱を巻き起こすなんて、やっぱりすごいかもしれない。終わり方は人それぞれ、好みしだいで評価は分かれるだろう。