この本は、4つの章に分かれている。
それは、4人の人物についてのそれぞれの物語だ。
どれもルビー文庫の「タクミくんシリーズ」において重要な役割を担った人物のお話。
そのタクミくんシリーズを読んできたファンからすると、たまらないお話だ。懐かしさや、裏話を知る事が出来たような喜びを感じるのだ。
タクミくんシリーズを読んでいなければ、話にならない。何も知らずにこの本を読んだとて、それなりに面白いかもしれないが、きっと話が飛び過ぎていて疑問が多く湧くだろう。
タクミくんシリーズは長い。主人公たちが高校2年生から3年生にかけての約2年間のお話なのだが、登場人物も多彩で、とっても色々な事があって、まあ長い事。
だが、これがまた、単なるボーイズラブ物に非ず。友情や謎解き、成長物語etc.もう、何度も感動してしまうお話なのだ。
そして、その約2年間のお話が終わってからも、彼らのストーリーは続いていた。主人公たちが大学生の話、社会人になってからの話と、続いているのだが……それはルビー文庫ではないのだ。
この本の中に「ごあいさつ」というページがあるのだが、そこにまとめて書いてあった。高校生編は角川ルビー文庫の「タクミくんシリーズ」。大学生編はX文庫ホワイトハートの「ブラス・セッション・ラヴァーズシリーズ」。社会人編はKADOKAWA単行本「崎儀一の優雅なる生活シリーズ」。そのほかにも講談社文庫で「卒業」とか色々と出ているのである。
そう、そこが悩ましい所。全部読みたいのに、時々抜けていたりするのだ。あれ、この話唐突じゃないか?と思うと、やっぱりその間の話が他の文庫で出ていた、なんて事も。
はっきり言って、困る。まとめて欲しい。だが、出せば必ず売れる(私のように、見つけると必ず買う人がいる)タクミくんシリーズの続編。どの出版社でも喉から手が出るほど欲しいに違いない(勝手な推測だが)。だから、何となくこんな感じにして均衡を保っているのだろう。あとは、Amazonさんから確実にお知らせが来てくれれば……って、メールを読まない事がある私……。
それでは、各章のあらすじと感想を書いていこうか。
赤池章三
一人目は赤池章三だ。章三はギイ(崎儀一)の相棒だった。けれども、ギイの突然の退学・アメリカへの帰国後、何もできなかった。ギイは保護者によって軟禁状態になっていたのだ。だが、ギイの恋人の葉山たくみが必死の努力の末に、ギイを取り戻した。章三は、それまでたくみを見くびっていた事に気づく。
先に述べた講談社文庫の「卒業」の辺りのお話だ。日本に来る事に臆しているギイの為に、サプライズパーティーを企画しているところ。そして、そのパーティーが行われるところ。
2年ぶりに会う章三とギイ。ギイがやたらと章三の幼馴染の女子と章三の事を気にする辺りが面白い。
山田聖矢
お次は山田聖矢。井上佐智の恋人である。井上佐智というのは、ギイの幼馴染で天才バイオリニストである。たくみが音大で師事している教授である。同い年ながら。
タクミくんシリーズの中で、佐智のお話はなかなかにドラマティックに書かれている。佐智が聖矢と初めて会ったのはワタナベ荘という下宿屋で、麻薬Gメンの聖矢が潜入捜査をしている最中だった。そのワタナベ荘が今回のお話に出てくるのだ。
そして、佐智が二十歳の誕生日を迎えるという話。年が十も離れた佐智と聖矢。危険な仕事だとか、お互いに時間があまりとれない忙しさだという事もあるが、やはり佐智が未成年という事で、二人はなかなか恋人らしい事が出来なかったのだ。
やっと佐智が大人になり、やっと会える時間がとれて、そして二人は……。
島岡隆二
島岡隆二はギイの父親の秘書である。アメリカ国籍を持つが、見た目も名前も日本人そのもの。島岡は父親の秘書であるにも関わらず、ギイは自分の秘書であるかのように島岡を使う事がある。
この章は特に裏話が多かった。島岡はたくみの事をどう思っているのか、本編ではよくわからなかった。しかし、島岡が主人公であるこの章には、ちゃんとその事も書かれているのだ。
そして、ギイと初めて会った時の事も。これがいい。そのシーンは繰り返し出てきて、きっと作者も気に入っている部分だと思われる。いやー、いい。幼い頃のギイを想像してこちらまで笑顔になってしまう。
それから、たくみが高校2年生の終わりに独りでニューヨークへ行き、空港で事故に遭って一時的に記憶喪失になった事があったのだが、その時の回想シーンもあった。あれは泣けた。
ああ、なぜあんな風に泣けるお話が書けるのだろう。高校生の恋物語なのに、どうして泣かせることができるのか。私が当初からごとうしのぶ先生を尊敬するゆえんである。
その泣けるシーンをまた思い出した。でも、色々と裏話があってとにかく面白かった。
祠堂の仲間たち
最後の章である。やはり「卒業」の辺りの話だ。
たくみと同じ大学の雅貴、律などが出てきて、それぞれの恋人も出てくる。
ギイと会ってみたいと思っていた律が、とうとう会えるというお話、と言うと語弊があるだろうか。でも、そこがほっこりして印象に残った。
それと、その律の恋人で祠堂学院3年生の中郷壱伊もまた、ギイに会いたいと思っていた。祠堂学院に入学する時に親からギイと仲良くなるように命令されていたのだが、全然親しくなれなかった。だが、この章の最後にギイと話が出来て感激しているのが面白い。
そういえば、ギイたちが高校3年生になった時、世界的企業の御曹司であるギイと懇意にさせようと、日本の大企業の御曹司たちがこぞって入学させられて来たのだった。それを知って、たくみを巻き込みたくないと、ギイは一時たくみを遠ざけた。そんな事もあったっけ。
その要注意組の一人だった壱伊。なんだか感慨深い。
色々と思い出に耽りつつ、あれ何だっけ?と思う事は必須。またタクミくんシリーズなどを引っ張り出してきて読みたくなってしまう。少なくとも「卒業」は読みたくなるだろう。なのでリンクを貼っておく。
以上「マイ・プレシャス」の感想であった。何はともあれ感動してしまう、良いお話だった。本編じゃない、などと侮るなかれ。ギイやたくみも出てきてファン必読本である。