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【読書感想文】宇佐見りん「推し、燃ゆ」を読んで

2022年12月16日(金)

第164回芥川賞を受賞した「推し、燃ゆ」。

実は、文学賞を受賞した小説を読むのは、初めてなのである。

それは偶然ではない。有名な作品は読まないのよ、とかいう理由でもない。

簡単には語れないが、つまりは嫉妬とか焦りとか色々あって、避けて来たのである。

だが、先日思い立った事があり(その辺は後々エッセイを書くつもりである)手に取った。

本を開く時、ドキドキした。受賞作品、認められた作品とはどんなものなのか。

あらすじ

ある少女の物語である。一人称で「あたし」と書かれている。名前はあかり。高校生のあかりは、アイドルの男性を推している。物語の冒頭、その「推し」がファンの女性を殴り、炎上する。

あかりは写真やグッズやCDを買ったり、コンサートに行ったり、たくさんのお金を推しのために使っている。なので、そのためにバイトもしている。推しに関するブログも書いている。

だが、あかりは生きづらさを感じている。体が重い。片付けが出来ない。覚えが悪い。みんなと同じ事が出来ない。それでも、推しに関する事にだけは集中する事が出来て、整理整頓も出来る。

生活に適応出来なくて、けれども親には理解してもらえない。日常での辛い事も、推しの為に頑張れる。だが、推しの方にも色々と問題があり、このまま幸せな推し活が続けられなくなりそうで。

推しがいなくなったら、あかりはどうなってしまうのか、とても先が気になる小説である。

文学的表現

何となく、少女の推し活の話だという事は知っていて、読んでみようと思った。私もアイドルを扱った小説を書いているし、気になったのだ。だが、私の方はライトノベル。けれども、こちらは文学賞を受賞したという事は純文学でしょ。どう違うのか?という事が気になって。

冒頭、推しが炎上したのには度肝を抜かれた。そう来たか。題名の「推し、燃ゆ」だが、「燃ゆ」は「萌ゆ」かと思っていた。そうじゃなかった。炎上という意味だったのだ。

読んでいくと、あれに似ている!とピンときた。私が前に感想分を乗せた中島信子の「あしたへの翼 おばあちゃんを介護したわたしの春」だ。一人称で、ちょっと幼稚な雰囲気なのだが、なんかこう、高尚な・・・そう、文学的な表現が多用されている。中島信子の作品は児童書なので、そこは少し違うのだが、今のご時世における子供の問題をあぶり出していく感じ。宇佐見りんの方は、もっと文学的表現が多用、というか文学的表現ばかりなのだ。

読みにくいとも言える。国語が得意な人、よく本を読んでいる人にしかすらすら理解出来ない雰囲気。恐らく発達障害だと思われる主人公の一人称なのに、こんな難しい言葉を使うのか?と思いつつも、そういう風にちょっと壊れている感じがいいのかも、とも思う。

問題をあぶり出す

この小説は、今の時代を切り取っている。ご時世をよく語っている。コロナは出て来ないけれど。

推し活がどんなものなのか、知らない人にとっては新鮮だと思う。写真集は観賞用と飾る用と二つ買うとか、人気投票の為にCDを20枚も買うとか、部屋には祭壇と呼ばれる一角があって、写真やグッズを飾っているとか。

そして、それは恋愛とはちょっと違うものだとか。

それから、軽度の発達障害をもつ人が、周りに理解されずに苦しんでいるというのも、最近クローズアップされてきた事実だと思う。本人目線で描かれているのが、とても分かりやすい。昔からあった事だが、字が覚えられないとか、段取りが分からないとか、人の気持ちを汲み取れないとか。それが障害ではなく個性だと思う事は悪いことではないのだが、頑張りが足りないとか、甘え怠けだと言って罰を与えたり突き放したりするのは、問題なのではないか。それを問いかけていると思う。

面白いのか

だが、読んでいて辛い。何しろ最初から推しには問題が生じているし、先には不安しかない。だが、この先主人公がどうなってしまうのか、目が離せない

どんどん進む、という点では面白い小説とも言える。だが、笑えたり、嬉しくなったりはしない。まあ、人によるかもしれないが。

小説はエンターテイメントだ、と常々言って来た。だが、この世の中をあぶり出す作品を書こうと思ったら、嬉しく楽しく読んでもらうばかりではダメなのだろう。でも、わざわざ辛くなる物を読みたいか?教科書じゃないんだからさ、とも思ったり。

そして、純文学あるあるで、何も解決しないまま終わったりするやつ。

言い換えれば、余韻を残し、先を想像する余地を残すってやつ。

で、結論を言うと、読んで良かった。最初はこういうもん?と思ったが、とにかく息つく暇もなくどんどん読んでしまったし。これは面白いと言える。新しいが、伝統的。流石だった。

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