ポテトをムシャムシャと食べながら、ボールを見ていた。
最初は両チームともよくゴールが決まった。決まる度に塩の付いた手で拍手をした。
うーん、私ってあんまりバスケ好きじゃないんだよなー。
とか思いながら、ムシャムシャと食べ、塩の付いた指をなめようとして辞め、ウエットティッシュで拭いた。
倒れて起き上がる
この日は東京2020パラリンピック1周年記念イベントが、有明アリーナで行われていた。
私はボランティアに応募したものの抽選に外れ、観客として3階席に座っていた。
式典が小一時間行われた後、車いすバスケットボールの日本代表ドリームマッチが行われていた。
ドリームマッチとは、日本代表チームを二つに分けての対戦である。つまり、どちらを応援していいか分からない、どちらも応援しない試合である。盛り上がりにイマイチ欠ける。
車いすバスケは、テレビではチラッと観たことはあった。だが、ちゃんとフルで試合を観た事があったかと言えば、恐らくなかったと思う。そもそも、プロの試合を会場で観戦した事は、サッカーしかないと思う。他にあったかなあ。サッカーはたくさん観に行ったけれど、他のスポーツはテレビでしか観たことがないと思う。
そんな私が席を陣取っていて申し訳ないとさえ思いつつ、ただゴールが入れば拍手をし、常にボールを目で追っていた。
そんな時、選手同士が衝突して、一人が車いすごと倒れた。あっと息を呑んだ。大丈夫だろうか、と心配になる。
すると、倒れた選手は仰向けからくるりと体を反転させ、手をついてひょいっと起き上がった。
おぉ、なんか今、カッコイイものを見たような・・・。
チキンレース
最初はよくゴールが決まったが、徐々に決まらなくなってきた。私の食べ物も無くなり、真剣に見始める。
ルールは予め渡されたハリセンにちょっと書かれていたのを読んだだけで、詳しくは知らない。残り時間も今の点数も、私の席からは見えない(それか、どこを見れば良いのか分かっていないのかも)。
それでも、散々バスケは学校の体育でやらされてきた。ある程度の事は分かる。
攻守が入れ替わった時、ダッシュして敵陣ゴールへ突っ走る人と、それを阻止しようと一緒に駆け出す人がいる。今目の前には、車いすでこちら側のゴール下へ全力で走ってくる二人がいる。猛ダッシュして来て、線から出ないように必死に止まる。体を伸ばして。
うわ、これってあれに似ている・・・チキンレース!
たとえは悪いかもしれないが、ちゃんと止まろうとして手前でスピードを緩めたら負け、みたいな感じで、とにかくギリギリまでスピードを出して突っ走って来るのだ。
テクニック
かと思えば、やっぱり激しくぶつかり合って倒れる。そして、くるりんぱっと起き上がる。やっぱりカッコイイよな。アクロバティックな感じで。体操の試合じゃないのに、ちょろっとバック転とかを見せられたような感じ。
倒れるのは心配だけれど、この起き上がるのが見たいという背徳的な感情が・・・。
だんだん分かってくると、「体を入れる」的に車いすを入れるディフェンスや、くるっと反転するのとか、様々なテクニックが見えてくる。
それでも、素人なので
「パスがよく繋がるな-」
とか、
「あんな遠くからシュートを決めるなんてすごい!」
なんていう、車いすがあろうとなかろうと、感激するシーンも満載だ。
音の演出
よく、生で見ると「キュッ」という音やボールの弾む音がいいとか、選手の声や汗、表情が感じられていいとか言われるが、私が見ていた3階席の上の方では、それらはさほど感じない。というのも、これはサッカーにはない事だが、会場内は音楽による演出がすごいのだ。あと、DJさんのかけ声とか。
我々はハリセンを持っている。曲がかかると、その曲に会わせてハリセンを打つ。例えばファールがあった時などは、特にハリセンを打てとばかりにリズムの良い音楽がかかるのだ。
時々自分の好きな曲がかかるとテンションが上がる。ハリセンの音があまり好きではないと思いつつ、テンションが上がるとバンバン打っている自分に気づく。
心奪われた
試合は第4クォーターまであったが、ちっとも長いとは感じなかった。2時間くらいの試合だが、もっと見ていたいと思ったくらいだ。
どちらが勝ったのかさえ、私にはよく分からなかったが、これが日本チーム対外国チームだったり、自分の応援するチームの試合だったりしたら、もっと面白く、盛り上がって観る事が出来るだろう。当然、どちらが勝ったのかは分かって観ていただろう。
試合後、同年代の女性二人と帰りながら、今日の感想を言い合ったら、彼女たちも
「倒れて起き上がる時が、すっごくカッコイイよねー」
「私、ときめいちゃったー!」
「やっぱり!?私だけじゃなかったんだー」
のような会話がなされたのだった。今日のイベントの1部も観覧した人が、女子の試合も観たそうで、
「女子は倒れてしまうと自分で起きられないんだよ。起こしてもらってた」
「という事は、あれは筋力のなせる技なのね-?」
「そういう事!」
「カッコイイよねー!!」
あー、決して若い女子ではないのであるが、そんな感じのテンションで会話しつつ、帰ってきたのだった。
つまり、我々は男子車いすバスケに心を奪われたのである。チャンスがあれば、是非また観に行きたい。テレビでも観たいと思った。少なくとも、日本代表の試合は応援したい。確実に。
この、初観戦のチャンスをくださった全ての人に感謝したい。