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【読書感想文】ごとうしのぶ「フラワーシャワー」を読んで

2022年5月31日(火)

前作「太陽の石」から続く、九鬼島でのサマーキャンプのお話。

葉山託生は、音大の井上教授主催のサマーキャンプのスタッフである。いよいよ九鬼島へ入り、ボランティアスタッフとして参加したギイ真行寺らと共に準備に取りかかる。

ごとうしのぶ先生、九鬼島の話は毎回引っ張るなー。一冊では収まらないのだ、いつも。今回もそう。きっとこの島が好きなんだな。モンサン・ミシェルのように、干潮時にだけ渡れる道で本土と繋がる島。伊豆にあるという設定だが、実際モデルになる島があるのだろうか。

今回の主人公?

いつも、主人公の他に、今回だけのメインキャラが登場する。今回はアイドルで、かつ音大のピアノ科に籍を置く汐音だ。ギイを慕っており、託生の事を密かにライバル視している。一方で、なかなか大学にも通えず、ピアノの練習もままならない。音大でピアノをやろうとすれば、一日でも休むべきではないのに、ほとんど練習出来ずに、真鍋教授のレッスンにだけ辛うじて通っている。ピアノを続けたいが、辞めるべきなのか、悩み、苦しんでいるのだ。

汐音は真鍋教授と、サマーキャンプで連弾をする事になる。一方、託生の大学時代の同期である財前や、かつて高校時代にニューヨークで託生の伴奏をしてくれたサツキ、真行寺と同じ事務所のアイドル莉央など、この「崎義一の優雅なる生活」シリーズに出てきた面々が、続々と九鬼島に集合してくる。

そして、城縞だ。託生と一緒に演奏するピアニストだ。彼もまた、スランプというか、何かにぶちあたっている最中の様子。何も語らないが、託生に「タスケテクレ」と、珍しくそんな事を言った城縞を、託生は何とか助けたいと思って、一緒に演奏をする事を承諾したのだ。

託生はしばらくバイオリンをちゃんと弾いていなかったので、今回のために懸命に練習をしてきた。そんな託生に城縞は、ギイが所有しているバイオリン「ストラディバリウス」(sub rosaと呼ばれる)を是非弾いてくれと頼む。高校時代には託生が所持して弾いていたsub rosaだが、あまりに高価な為、今となってはとても所持出来ないと、託生は10年以上弾いていなかった。

だが、今回城縞に頼まれ、久々に託生はsub rosaを弾く。じゃじゃ馬と称される事もあるストラディバリウスは、弾くのにとても体力を要し、しかも突然練習してきたのと違うバイオリンで曲を演奏する事は出来ないものなので、本番はいつも託生が使っているバイオリンで演奏したのだが。

汐音の事もある程度解決したが、最初に「この本の主役は汐音かな」と思った心を思いっきり裏切り、最後は城縞のピンチ、そして解決に!

懐かしいギイの辣腕が見られ、思わず涙が出るほどの見事な解決っぷり。感動しちゃうという奴だ。いやあ、良かった。読み終わった後、ものすごく気分がすっきり

だが、大人しくサマーキャンプが終わってしまった。託生と城縞の演奏会がクライマックスだと思ったら、その描写はなかった。

今回、サマーキャンプが根底にあるテーマで、サマーキャンプはたくさんの演奏会が開かれるわけなのだが、その描写が一切なかった事にとても驚いた。かつて、託生が高校生だった時に参加したサマーキャンプの時には、演奏会の細かい描写があったのに。

感動した一文

最後に、私が一番感動した一文。というか、ギイのセリフを。

「【sub rosa】は託生のためにこの世にあるのに」

城縞が、どうして自分のためにそこまでしてくれるのか、とギイに問うた時、ギイは大学時代に託生の伴奏をしてくれたお礼と、sub rosaを託生に弾かせてくれたお礼だと言った。その時のセリフだ。

それを聞いた城縞は

「葉山くんのためにストラドがー?」

と衝撃を受け、託生は真っ赤になって

「また、大袈裟な事を言って!」

とギイを小突くのだが。

もう、崎義一の優雅なる生活シリーズは終わりだろうか。いや、きっとまだ続くだろう。続いて欲しい。

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