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どんだけ伏線張るんだ?!~ごとうしのぶ「太陽の石」を読んで~

この物語は「崎義一の優雅なる生活」シリーズの第4弾であり、「タクミくんシリーズ」のその後の物語である。

ミス・アラタの物語

タクミくんシリーズの主人公、葉山託生の同級生で、高校3年生の時に寮の同室者だった三洲新(みす あらた)。医者になったが辞めて、今は高校の保健室の先生をしている。いや、臨時雇いだが。

「太陽の石」は、この三洲新の物語である。

三洲は高校時代、生徒会長を務め、優秀で、良い子で、人当たりの良い人物だった。けれども、どこか「心ここにあらず」なところがあり、実家にいてさえも、まるで自分の居場所がないような感覚を持ち続けていた。

そして、なぜそんな風になってしまっているのか、ある時に分かるのだ。三洲の父親から打ち明けられた出生の秘密。実は新の母親が出産した子は死産だった。その時、祖母がどこからか生まれたばかりの赤ん坊を連れてきて、出産した母にも知らせず、三洲家の息子としてして育てたのだ。いや、育てたのは祖母ではなく、父と母なのだが。

今回、ある人物と三洲が似ている、と言われた所から始まる。その人物とは、三洲の祖母の、結婚前に死んでしまった恋人の、弟の子供、かもしれない、人物。

非常に、分かりづらいのだが、以前のお話に出てきた、天才的なフルート奏者の、だが儚げで頼りない、雅彦だった。

雅彦の物語も、かつて描かれた。父の死後、DNA鑑定により、その父とは血が繋がっていない事が分かり、乙骨財閥の財産を受け取れず、母の姓になっていた。乙骨家に嫁ぐ前の雅彦の母は、実は九鬼泰介と付き合っており、恐らく雅彦は九鬼泰介の息子。九鬼島と呼ばれる、今は京古野というピアニストで音大教授が所有する、モン・サン・ミシェルのような島。九鬼家はその島で、何やら悪徳な事をしており、九鬼泰介の兄で、三洲の祖母のかつての恋人や、泰介の妻が崖から転落して亡くなるという、不穏な話もある。

とにかく、色々複雑である。

崎義一の優雅なる生活シリーズでは、この九鬼島で託生たちがサマーキャンプを行うという一大イベントに向かって物語が進行している。託生は久々にここでバイオリンを弾く事になっていて、必死に練習していたのだが、支持している井上教授と、京古野教授が託生と伴奏をする城縞の為に、新たな編曲をしてくれて、託生はそのかっこいい、素敵な編曲にたいそうやる気を出し、勇気をもらうのだ。

そのサマーキャンプに三洲もボランティアスタッフとして参加する事になった。三洲の恋人で芸能人の真行寺も、素性を隠して参加する。三洲は今真行寺と一緒に暮らしているが、真行寺曰く、今はかつてのように溌剌(はつらつ)としていないのだそうだ。三洲は。三洲は色々と迷っている。

三洲は、自分の生まれた理由が知りたい。だが、そのせいで周りを巻き込んで、誰かを不幸にしてしまわないか。ずっと迷っているのだ。進むか、引き返すか

人物関係が複雑で、過去の事が多く出てくるし、頭を使ってしまうが、最後はやっぱり泣けた。まだ続きがあって、これからサマーキャンプが行われ、どうにかなるのだろうが、一応この物語の最後には、三洲は自分の中で解決し、すっきりする。ちょっとだけ溌剌とした三洲が戻ってきたと言えよう。

伏線を張り続け・・・

それにしても、この壮大な物語は、一体いつから構想を練ってあったのか?

高校時代にも、既にこの話が出来ていて、少しずつ小出しに「伏線」を貼っていた。一体いつになったら回収されるのだろうと思っていたのだが、やっと回収にさしかかったようだ。物語の中でさえ、10年の月日が経っている。実際にはもっとだ。

三洲新の素性がこうで、そのためにこういう性格で、と、ちゃんと決めた上でタクミくんシリーズを書き始めたという事なのだろうか。そこがすごい。あっぱれ!いままでも、三洲の家族が出てきたり、九鬼島が出てきたりという、スペシャル番組的なお話もあったのだが、回収するまでにこれほど多くのお話が書けるとは。感服しきりである。

実は、この前のお話「忘れえぬ此の花を、此の想いを」をすっとばして、先にこの「太陽の石」を読んでしまっていて、次の本を買った時にすっとばした事実が判明し、「忘れえぬ~」を読んでからもう一度この「太陽の石」を読んだ。最初は、まだ読んだばかりだからじっくり読まなくてもいいかな、流石に面白くないかな、と思っていたのだが。それは間違いだった。私がすっとばしていた所が補われた結果、間違えた解釈を正しつつ、「ああ、そういう事だったのか」と要所要所納得しながら読むのはとても楽しく、そして最後にはやっぱり感涙してしまうという。何度読んでも面白い。

次のお話は、いよいよサマーキャンプなのだろうか。どうなるのか?という気になる要素はそれほどないが・・・真行寺が芸能人である事を隠して参加するので、そこがバレないかという事や、託生がどんな演奏をするのかとか、もしかして、来ないと思われていた雅彦さんが来る?とか、三洲の本当の母親が分かったりするのか?とか。うーん、やっぱり色々気になるではないか。

ごとうしのぶ先生、流石である。まだまだ続きを書いていただきたい。

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