コロナの後遺症?
「裏声が出なくなっちゃったんだよ。何か引っかかってるみたいで。コロナの後遺症かな」
夕べ、次男が言った。
次男は低い声で話すが、歌う声は高く、また、ボーイソプラノのような裏声も出す。好きこそ物の上手なれとはよく言ったもので、小さい頃は音痴ながらも、歌う事が好きで、たくさん練習するものだから、けっこう上手くなっている。しかし、楽器をしっかり習った事がなく、時々音痴かな?と思わせるのは残念だ。
そんな高い声を持つ次男だが、先日コロナウイルスに感染し、かなり咳が出て、喉がやられた。感染直後は「声変わりした」と言うくらい、話す声さえも低くなっていた。
しかし、今はすっかり良くなり、ポップスなどを散々歌っているようだ。だが、高い裏声が出なくなったと言う。男子だから、それで普通だとは思うのだが。
喉の問題ではない
さて、裏声が出なくなるという現象。きれいに出ていたのに、久しぶりに歌おうと思ったら上手く出ないという現象。それは、私が散々経験してきた事。コロナに関係なく、それは起こる。
「私の経験からするとね、それは喉の問題ではないのだよ」
私が言うと、
「え?何?何が問題なの?」
と次男。これからお教えしよう。
きれいな裏声を出すために必要なのは、主に二つ。腹筋の使い方と、喉の力の抜き方である。
腹筋
下腹に力を入れる。ただし、引っ込めるのではなく、押し返す力。とはいえ、出っぱらすのとも違う。
斜め下から押される力に対抗し、押し返すように。そうして、下半身全体でどっしりと体を支える。
「この辺?」
次男がおへそのすぐ下を指す。
「もっと下かな」
前へ跪き、拳を下腹に当ててやる。
「はい、これに寄りかかって」
まっすぐに立った状態から、下腹の拳に体重を掛けてみる。どこに力を入れるのかが分かる。
「こんな下だったのか。もっと早く教えてよ」
次男が言う。次男は現在唯一の私の弟子である。私は高校時代に合唱部で全国大会金賞を受賞した事があり、発声に関しては専門家にも教えてもらい、先輩から後輩へと受け継ぎ、とにかく毎日切磋琢磨したものだ。その当時は散々後輩に教え、それ以後も一緒に合唱をやる仲間には教えてきた。
喉の力
下半身やお腹に力を入れるのと同時に、喉の力を抜く事が大事。
あまり上を向くと喉が閉まるので、少しうつむき加減で。最初はスタッカート気味に、頭のてっぺんより少しおでこ寄りの頭蓋骨に音を当てるイメージでコンコンと。
「はっはっはっは」
最初は相当腹筋がキツい。体がぷるぷるする。しかし、これは慣れるとそれほど大変でもなくなるのだ。
体が思い出す
初めての時はなかなか出来ないが、前は出来ていたのに、久しぶりに声を出そうとしたら出ないという場合は、辛いのは最初だけ。すぐに腹筋の使い方というか、声を出すシステムを体が思い出す。
「あ、出た!」
次男は、きれいな声が出たり出なかったり。
そうして、しばらくやっていたら、すっかりきれいな裏声が出るようになった。お前はソプラノか?いや、テノールだよな?
「わあ、ありがとう!さすがお母さん。全国レベル!」
すごく喜んでいた。
それからお風呂に入った次男。出てきてからさらっと歌ってみて、
「すごく楽に出るー。不思議だよね。こんなに簡単に出るのに、なんでさっきは出なかったんだろ」
と言う。そうなのだ。思い出せば簡単な事なのに、忘れてしまうと難しい。これがコツって奴なのか。
とにかく、後遺症じゃなくて良かったね。
「お母さんがいて良かったよ。いなかったら病院に行ってたか、ボイストレーナーの所に行ってたよ」
受験生が夜中に何言ってるんだか知らんが、良かった良かった。
緊張したら
私も散々経験してきた。時々合唱をやるので、久しぶりにやろうとすると大変だ。全然声が出ない。
「合唱経験者です」
「やってたから、歌は得意です」
なーんて言っていながら、全く良い声が出なくて焦った事は多々ある。
しかし、焦る事無かれ。まずは腹筋を意識し、それにプラスして「足と足をくっつける」「お尻をしめる」などの動作も加え、下半身をしっかり支える。そして、なるべく肩の力や喉の力を抜き、最初から思いっきり高い声を出して発声練習をする。
「自分にとって」高い音を出す必要がある。高い音を出すぞ、という意気込みによって、体が高い声を出すシステムを思い出しやすくなるのだ。
1曲目は腹筋が辛くても、2曲目、3曲目くらいにはすっかり慣れて辛くない。楽に高音が出せるようになっているものだ。
一方、さっきまでちゃんと出ていたのに、舞台に上がったら緊張してしまって、急に声がかすれたり、上手く出なくなることがある。これは、なかなか自分では御しがたい事実である。緊張した為に、体に変に力が入った為に起こるのである。対処法としては、緊張を解くしかない。自信を持つしかない。それが無理ならば、後は必死に腹筋を頑張るしかない。