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【読書感想文】ごとうしのぶ「卒業」を読んで

2022年2月6日(日)

あらすじ

ギイ(崎義一)は、アメリカから日本の高校に留学していたが、訳あって卒業まで在籍できずに帰国した。しかも、友人達に別れの挨拶も出来ず、その後ずっと音信不通だったため、高校時代の友人達に負い目を感じていた。

2年の時を経て、恋人のタクミ(託生)がギイへのクリスマスプレゼントに選んだのは、高校時代の友人達に会わせてあげることだった。更に、冬休み中の母校へと足を運んだギイに、教師達が卒業証書を授与する。

一方、タクミ達の後輩である真行寺は、剣道を極めるべく体育大学へ進学したが、足の大怪我をしてしまった。真行寺がこの先の身の振り方に迷っている所へ、芸能事務所の社長から熱烈なお誘いがある。芸能界に興味の無かった真行寺だが、所属タレントに刺激を受け、雑用係のアルバイトとして事務所に入る事にする。

概要

このお話は、タクミとギイの高校2年生から3年生までのお話を綴った「タクミくんシリーズ」の続編である。タクミくんシリーズは、周りの友人達のお話も含めた壮大なストーリーだ。人里離れた全寮制男子校を舞台に、恋愛模様を中心に、たくさんの事件などがあり、主軸のタクミとギイの恋愛と絡め、多くのカップルも誕生する、笑いあり涙ありの物語だ。

そして、本編が終了した後にも、その後のタクミ達のお話が続いている。その一つがこの「卒業」だと思っていいだろう。「卒業」よりも前に書かれたお話では、既に真行寺が芸能活動をしていたり、タクミが音大を卒業していたりしたのだが、「卒業」ではまたそこから遡って、タクミたちの大学生時代を描いている。そして、本編が終了した時にはなぜギイが突然いなくなってしまったのかが分からないままだったのだが、その理由も後から知らされたりするなど、時系列が動く。もどかしいが、これは?と思っても、後から説明が出ると思っていい、かもしれない。

BLのバイブル

タクミくんシリーズに出会ったのはかれこれ28年前だ。タクミはそれからまだ10歳も歳を取っていないというのに、私はすっかり歳を取った。私が小説を書き始めた頃に出会ったこのシリーズは、私にBL小説を書かせるに至る。いろんなBLものがあって、単なるエロ本にもなり得るジャンルであるが、私にとって、いや、多くのBL好きに取って、このタクミくんシリーズはBLのバイブルと言ってもいいものだ。確かに性描写もあるのだが、それ以上に友情愛情ミステリー要素まで、たくさんの価値ある物語なのだ。

私はずっと、尊敬する小説家は「夏目漱石」と「ごとうしのぶ」だと言ってきた。それくらい、ごとう先生の事は尊敬しているし、多大な影響を受けている。

タクミくんシリーズは、本編はタクミの一人称で書かれている。しかし、時々タクミ以外の人物が主人公の部分があり、その時には三人称で書かれる。この「卒業」も三人称だ。時々、ギイの視点から書かれた部分が出てくる事があった。私はそれが好きだった。もっと、そっち側(セメ目線?)からのお話が読みたいなーと思った事で、私が書いたのが「クピドー~太陽のように笑う君~クピドー~太陽のように笑う君~(夏目碧央) – カクヨム (kakuyomu.jp)である。以来、私が書く恋愛小説は、セメ目線、男目線が多い。

欠点を見つけてしまった

だが、私がその後たくさんの小説を書いていく間に、いや、どうやって書こうかともがき苦しむ間に、一応成長したのだと思う。そして、今回「卒業」を読んで、ちょっと分かってしまった事がある。

それは、ごとうしのぶは「三人称」が苦手だ、という事実だ。

プロの小説家の先生に対して、欠点なぞを指摘するなんて、おこがましいにも程があるのだが、失礼を承知で、ここは一読者として述べたいと思う。

最近、三人称で書かれたごとう先生の作品を読んでいると、ちょっと混乱する事がある。誰の目線の「思い」なの?という混乱だ。

一人称で書くと、主人公の考えはダダ漏れである。「~と思った」という文章もざらに出てくる。だが、主人公以外の人物に関しては、何を考えているのかは分からず、行動を書くのみになる。「眉をよせた」「こちらも見ずに去ってしまった」など、そういう行動から、相手がどんな感情なのかを主人公と共に考える事になる。読み手は。

三人称で書く時は、「誰々は~と思った」と書いて行けば混乱しない。しかし、全て「こう思った」と神のごとく全員の心の中を読めている状態では、あまり面白くない。私の母が昔言っていた。全て「~と思った」と心情が書いてある小説は、稚拙で面白くないと。そこで、全ての人物の感情を直接書かず、全て事実や行動だけで書くと、それはそれで分かりにくいものになる。全て書かなくとも、一部書く事になるのだ。どうしても。

それで、ごとう先生が書く三人称の小説は、誰々が~と思ったと書いてあるのだが、「誰が」が抜ける事がよくある。そうすると、多分今主人公っぽい人の心情だろうとこちらは読む。多分当たっているのだと思うが、やっぱりちょっと分かりにくいのだ。

元々、ごとう先生の小説は、音楽知識が豊富過ぎてマニアックなのと、一文が長いという特徴があると思っている。~なのだが、とはいえ~で、~なのである。という感じに、長い。

それでも、物語の骨格がしっかりしているのと、なんだろうな、泣かされてしまうんだな。感動させるものを書くのが上手い。事件なんかが起きるのも、物語を面白くする秘訣だが、本当にそういったエピソードを作るのが上手い

時々挟まっているエピソード

「卒業」の中に、時々「人間ではないもの」が出てくる。これだけは、シリーズを読まずしてこの本だけを読んだのでは理解できないと思われる。かつて、一つのエピソードとしてはとても長いお話だった「Sincerely」という物語がある。もちろん、タクミくんシリーズの中の一冊だ。高校生のタクミたちがスキー合宿へ行った時のお話で、タクミが滑落してしまい、それをタケルという人物に助けられる。実は、タクミとギイのお話と同時に、その雪山で亡くなった同級生のお話が描かれ、山に住む、人間ではないものが出てくる。それがタケルなのだが、そのタケルがまたこの「卒業」にも出てくるのだ。

エーデルワイスの花や、亡くなった同級生の妹の香織などが出てくるが、その話を知らないと、何のことだか分からないだろう。いやしかし、「Sincerely」は本当に良かった。すごく泣いたし

そういうわけで、ちょっと忘れていたりして、以前のお話を読み返したくなるけれど、どこを読めばいいのかも分からないくらい、うちには膨大なタクミくんシリーズの本が並んでいるが、それでもやっぱり、タクミくんシリーズはいい。読むのを辞められない。今回「卒業」を読んでも泣けた。まだまだごとうしのぶ先生にはこのシリーズを続けて欲しい、とついつい読者目線で思ってしまう。色々ひねり出すのも大変だろうな、という作家目線の感情はこの際、無視しよう。

BLのこれから

あ、それからもう一つ。この本はBL小説ではあるけれど、恋愛をテーマにしているとは言いがたいくらい、ラブシーンもほとんど出てこない。すごく今っぽい気がする。もうBLとか、ジャンル分けはいらないんじゃないか、という事なのではないだろうか。

物語に、色々なテーマが入っていて、恋愛要素も時々入ってくる。それがたまたま男同士だというだけで、特別なジャンルではないよ、という。

今後、わざわざ「BL」と注意書きしなくても小説を投稿出来るようになってほしい。作者としてはそう思っている。

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